この記事は、「VRIO分析という言葉を聞いたことはあるけれど、もっと深く理解したい」「VRIO分析の具体的例を知りたい」と考える経営者や担当者に向けた内容です。

VRIO分析とは、自社の競争優位性を評価するためのフレームワークです。この分析を理解することで、経営戦略や施策を立案する際に役立てることができます。本記事では、VRIO分析のやり方や具体例に加え、そのメリットとデメリットについてもわかりやすく解説します。

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VRIO分析とは何か？

VRIO分析とは、自社の経営資源が競争優位性を持っているかどうかを評価するためのフレームワークです。この分析では、以下の4つの視点に基づき、自社の経営資源を「Yes」または「No」で評価することで、競争優位性を判断します。

• Value（経済的な価値）
• Rareness（希少性）
• Imitability（模倣困難性）
• Organization（組織活用力）

これらの頭文字をとって、VRIO分析と呼ばれています。このフレームワークは、1991年にアメリカの経営学者ジェイ・B・バーニーによって提唱されました。

また、VRIO分析で指す「経営資源」とは、企業が競争優位性を構築するために保有する様々なリソースのことを指します。有形・無形を問わず、以下のように分類できます。

• 有形資産：工場、設備、土地、資金
• 無形資産：ブランド力、知的財産、ノウハウ
• 人的資源：高いスキルや専門知識を持つ従業員、ベテラン従業員
• 組織的資源：効率的な業務フロー、サプライチェーン

VRIO分析を活用することで、自社の競争優位性を明確にすることができます。事業戦略の見直しや新規の立案、リソース配分の最適化などに役立つ分析手法です。

VRIO分析の4つの視点

まず、VRIO分析の4つの視点である「Value（経済的な価値）」「Rareness（希少性）」「Imitability（模倣困難性）」「Organization（組織活用力）」について解説します。

これらはVRIO分析の基本となる要素です。分析をスムーズに進めるためにも、正しく理解するようにしましょう。

1. Value（経済的な価値）

Value（経済的な価値）は、「自社の経営資源が顧客や社会に価値を提供しているか」を評価する項目です。売上への貢献だけでなく、社会への影響度も含めて評価します。売上やコストの視点にとどまらず、顧客満足度やブランドの評判も考慮する必要があります。また、「新たなビジネスチャンスを生み出す可能性があるか」という視点も忘れないようにしましょう。

Valueを正確に評価するためには、自社の商品やサービスが市場に与える影響を客観的に理解する必要があります。

2. Rareness（希少性）

Rareness（希少性）は、「競合他社と比較して、自社の経営資源にどれだけの希少性があるか」を評価する項目です。特定の技術やブランド力などが該当します。

希少性が高い資源は顧客にとっての魅力にもなるため、市場シェアの獲得を有利に進めることができます。Rarenessを評価する際には、「市場に同様の資源を持つ企業がどれだけ存在するか」や「その資源を獲得するのに必要な時間やコスト」を客観的に比較しましょう。

3. Imitability（模倣困難性）

Imitability（模倣困難性）は「競合他社が自社の経営資源を模倣しようとする場合、技術やコスト、時間における不利に直面するか」という点を評価する項目です。

模倣困難性を高める要素には、企業文化や従業員の専門知識、長年の経験に基づくノウハウ、また特許や商標といった法的保護も含まれます。

Rareness（希少性）と類似した視点ではありますが、希少性が高くとも模倣が容易である場合、Imitabilityは「No」に該当します。

4. Organization（組織活用力）

Organizationは「報酬体系や人材採用・育成など、自社の経営資源を活かせる体制が整っているか」という点を評価する項目です。最後に、自社のポテンシャルを100%で発揮できる組織かどうかを判断します。

魅力的な経営資源を保有していても、それを使わない場合は存在しないのと同じです。組織体制の構築が不十分な場合は、企業が競争優位になることはありません。

組織の文化や風土も重要であり、柔軟性やイノベーションを促進する環境を整える必要があります。

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VRIO分析のメリットとは

自社の経営資源の競争優位性を評価できるVRIO分析ですが、分析を行うことでどのようなメリットがあるのでしょうか？ここからは、具体的なメリットを3つ紹介します。

自社の強みと弱みを把握できる

VRIO分析を行うことで、自社の強みと弱みを明確に把握できます。自社の経営資源を「Yes」または「No」で評価していくため、「Yes」と判断された指標が強みであり、「No」と判断された指標が弱みです。

例えば、Value・Rareness・Imitabilityすべてが「Yes」であり、Organizationが「No」の場合、この企業の弱みはOrganization（組織活用力）であることがわかります。そのため、組織体制の改善に取り掛かることができます。

このように、強みと弱みを明確にすることで、競争優位を獲得するための改善点が明確になります。

意思決定の質が向上する

VRIO分析によって自社の強みと弱みが明確になれば、意思決定の質が向上します。

例えば、競合他社が模倣できない特許技術を保有しており、Imitability（模倣困難性）の観点で強みと判断できる場合を考えます。その場合、特許技術を活かして新商品の開発に注力することで、競争力を高める戦略が有効でしょう。

一方、Organization（組織活用力）に改善が必要な場合は、社内体制見直しや人材育成に取り組む必要があります。

VRIO分析を通じて経営資源の競争優位度合いを把握することで、客観的に効果が期待できる戦略を立てることができるようになります。

経営資源の価値を再認識できる

自社の経営資源の価値を再認識できることも、VRIO分析の大きなメリットです。VRIO分析を通じて、独自のノウハウや特許、ブランド力が市場に持つ影響力を改めて把握することができます。これにより、競争優位性を支える経営資源をさらに強化する施策や、これまで十分に活用されていなかった資源を活かす施策を検討するきっかけが生まれます。

さらに、自社の経営資源を外部と共有する可能性を発見することもできます。自社のブランド価値を活かして、異なる業種の企業と共同でプロモーションを実施することなどが該当します。

また、近年は人的資本経営という言葉が注目されるようになりました。人的資本経営が目指す状態や、実現するために必要な事柄について興味があるご担当者様は、こちらの資料もご覧ください。
人的資本経営を考える ～組織づくりの道しるべ～

VRIO分析のデメリットとは

VRIO分析を実施する際には、デメリットについても理解しておく必要があります。デメリットを把握することで、それらを補完する施策を事前に検討することが可能になります。ここでは、VRIO分析の主なデメリットを3つご紹介します。

短時間で分析することはできない

VRIO分析を短時間で終わらせることは困難です。設備やシステム、知的財産、人材など、企業が保有する経営資源は非常に多岐にわたります。それらを正確に把握し、分析するには多くの時間が必要です。規模の大きい企業では、分析の対象が増え、さらに多くの時間を要する場合があります。

短期間で分析を行った場合、経営資源が正しく反映されない恐れがあります。そのため、VRIO分析を行う際は十分な時間を確保することが大切です。

市場の急速な変化に対応しにくい

市場の急速な変化に対応しにくい点も、VRIO分析の特徴の一つです。市場の状況や競合他社の戦略が変われば、自社の経営資源に対する評価も変化します。たとえば、新しい技術の登場や消費者の嗜好の変化によって、以前は競争優位とされていた資源が急速に価値を失う場合が挙げられます。

市場の変化に対応するためには、常に市場の動向を観察し、変化があった際にはVRIO分析を見直すことが重要です。

外部の影響を見落とす可能性がある

VRIO分析は、自社の競争優位性を評価するためのフレームワークですが、競合他社や技術の進歩といった外部要因を見落とすリスクがあります。競合他社が戦略を公開していないことが多いため、外部要因を完全に取り入れることは難しいためです。

VRIO分析を実施する際には、このような性質を理解しつつ、外部環境の実態やその影響を慎重に評価する必要があります。VRIO分析を他のフレームワーク（SWOT分析やPEST分析など）と組み合わせることで、より包括的な経営戦略を立案することが可能になります。

SWOT分析について理解を深めたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
組織戦略はどう策定する？具体的な方法・コツと成功させるポイントをご紹介

VRIO分析のやり方

VRIO分析のメリットとデメリットを理解できたところで、具体的な進め方について解説します。正確に分析を進めるためには、以下の5つの手順に沿って分析を進めましょう。

1. 目的を明らかにする
2. 自社の経営資源を洗い出す
3. 競合他社を選定する
4. 4つの視点で評価する
5. 評価結果を分類する
6. 経営戦略に取り入れる

1. 目的を明らかにする

まずは、VRIO分析を行う目的を明らかにしましょう。目的が曖昧だと、分析結果が有効に活用されないリスクがあります。

たとえば、「競争優位性を再確認したい」「新規事業の方向性を決定したい」「既存事業の見直しを図りたい」などが挙げられます。目的を明確にすることで、分析する経営資源の範囲や優先順位が整理され、効率的に進めることができます。また、最終的に分析結果をどのように経営戦略に結びつけるかの道筋をイメージしておくことも大切です。

2. 自社の経営資源を洗い出す

続いて、経営資源を正確に洗い出しましょう。経営資源には、有形資産（工場や設備）だけでなく、人材やノウハウ、ブランド力などの無形資産も含まれます。漏れを防ぐためには、各部門や工程ごとにチェックリストを作成することをおすすめします。

また、VRIO分析を行う目的に応じて、特に重要な経営資源を優先的に選定しましょう。これにより、効率的な分析が可能になります。

3. 競合他社を選定する

自社の経営資源を評価するためには、競合他社と比較することが重要です。実際の評価に入る前に、比較の基準となる競合他社を選定しましょう。競合他社と比較することで、市場での自社の位置づけを明確にすることができます。

ただし、どの企業を基準とするかによって評価結果は変わるため、慎重に選定する必要があります。事業における競合はもちろん、企業規模や経営状況が近い競合に焦点を絞ると良いでしょう。

4. 4つの視点で評価する

次に、「Value（経済的な価値）」「Rareness（希少性）」「Imitability（模倣困難性）」「Organization（組織活用力）」の4つの視点で自社の経営資源を評価を実施します。

一般的には、「①Value（経済的な価値）→②Rareness（希少性）→③Imitability（模倣可能性）→④Organization（組織）」の順番に、それぞれ「Yes」「No」で評価することで分析を進めます。順に評価をする中で、「No」が出たら分析はそこで中断します。どれか一つの視点で「No」が出ると、この後に紹介する「持続的な競争優位」は獲得することができないからです。

評価基準は以下の通りです。

• Value（経済的な価値）…自社の経営資源が顧客や社会に価値を提供しているか
• Rareness（希少性）…競合他社と比較して、自社の経営資源にどれだけの希少性があるか
• Imitability（模倣困難性）…競合他社が自社の経営資源を模倣しようとする場合、技術やコスト、時間における不利に直面するか
• Organization（組織活用力）…自社の経営資源を活かせる組織体制が整っているか

5. 評価結果を分類する

評価結果をもとに、「持続的な競争優位」「一時的な競争優位」「競争均衡」「競争劣位」のどれかの状態に位置付けることができます。

6. 経営戦略に取り入れる

最後に、分類した評価結果を経営戦略に取り入れましょう。具体例には、「Yes」と評価された部分を活かし、「No」と評価された部分を補う戦略を策定します。

たとえば、持続的な競争優位性を持つ経営資源を活用して新規市場への参入を図ることが考えられます。持続的な競争優位性を持つリソースは、他社との差別化に直結するため優先的に活用すべきです。

また、一時的な競争優位性を持つリソースを基盤にして、短期的な収益向上を目指すといったアプローチも考えられます。

競争劣位の資源については、改善の余地があるかどうかを判断し、必要ならば外部リソースで補完する選択肢も検討します。

VRIO分析の具体例

続いて、VRIO分析の具体的な事例を見ていきましょう。Google LLC、株式会社ユニクロを取り上げ、それぞれが保有する経営資源について価値、希少性、模倣困難性、組織活用力の4つの視点から分析を行います。

Google LLC

Google LLCは、検索エンジン、オンライン広告、ソフトウェア、ハードウェアなど多岐にわたるインターネット関連サービスを提供する企業です。現在は、持株会社Alphabetの子会社に位置しています。

・Value（経済的な価値）…Yes
Googleの検索エンジン技術（PageRank）は、ユーザーに最適な情報を提供しています。また、広告主にも効果的なリーチを可能にしています。
また、Android OSやGoogle Ads、YouTubeなどのプラットフォームも高い収益性を誇り、顧客に価値を提供しています。

・Rareness（希少性）…Yes
世界的なブランド力、膨大なユーザーデータ、独自の検索アルゴリズムなど、競合他社が容易に模倣できない要素を多数保有しています。

・Imitability（模倣困難性）…Yes
長年のデータ蓄積、技術特許、高度なサーバーインフラは模倣が困難です。
ブランドへの信頼性も、他社が真似しにくい要素です。

・Organization（組織活用力）…Yes
Alphabet体制により、複数の事業を効率的に管理しています。
イノベーションを促進する企業文化も整っているといえるでしょう。

以上の分析から、Googleは持続的な競争優位性を保有していることがわかります。

株式会社ユニクロ

株式会社ユニクロは、日本を代表するグローバルアパレルブランドです。
高品質かつ機能的な衣料品を手頃な価格で提供し、独自のSPA（製造小売）モデルを活用して世界中で展開しています。

・Value（経済的な価値）…Yes
ユニクロは、高品質で機能的な衣料品を手頃な価格で提供し、顧客に高い価値を提供しています。独自の素材開発やデザインにより、消費者の多様なニーズに応えています。

・Rareness（希少性）…Yes
ユニクロのSPA（製造小売）モデルは、企画から製造、販売までを一貫して行うことで、他社にはない効率的なサプライチェーンを実現しています。また、ヒートテックやエアリズムなどの独自素材は、他社にはない希少な商品として位置付けられています。

・Imitability（模倣困難性）…Yes
ユニクロのグローバルなサプライチェーンや独自の素材開発能力は、長年の経験と投資によって築かれたものであり、他社が短期間で模倣することは困難です。さらに、ブランド力や店舗運営のノウハウも他社が容易に再現できない要素です。

・Organization（組織活用力）…Yes
ユニクロは、迅速な意思決定と柔軟な組織運営を可能にする企業文化を持ち、これらのリソースを効果的に活用しています。また、グローバル展開に対応するための人材育成や情報システムも整備されています。

以上の分析から、ユニクロは持続的な競争優位性を保有していると評価できます。

VRIO分析のよくある質問

最後に、VRIO分析についてよくある質問を紹介します。VRIO分析への理解をさらに深めたいという方は、ぜひご参考にしてください。

「VRIO分析」と「SWOT分析」はどう違う？

VRIO分析は、主に企業内部の経営資源に焦点を当て、それらが競争優位性を生み出せるかを評価するフレームワークです。一方、SWOT分析は、企業の「強み（Strengths）」「弱み（Weaknesses）」「機会（Opportunities）」「脅威（Threats）」を整理し、内部環境と外部環境を組み合わせて総合的に分析する手法です。

VRIO分析は経営資源の競争力を評価することに適しており、SWOT分析は企業全体を取り巻く環境を整理するのに役立ちます。両者を補完的に使うと効果的です。

VRIO分析はどのような状況で活用するのが効果的？

VRIO分析は、新規事業の立ち上げや既存事業の改善が必要な場合に効果的です。また、企業買収やアライアンスの対象を選定する際にも役立ちます。

企業買収の例として、Googleが動画共有プラットフォームであるYouTubeを買収したことが挙げられます。当時、YouTubeは急成長中の企業であり、他社にはない独自のリソースを持っていました。

そこでGoogleは、広告収益化に関するノウハウや技術力をYouTubeに統合することで、その潜在的価値を最大限に引き出すことができると判断したのです。「Organization（組織活用力）」を重視した判断ともいえるでしょう。現在、YouTubeはGoogleの主要な収益源の一つとなっています。

「模倣困難性」の具体例とは？

模倣困難性とは、「他社が特定のリソースや能力を簡単に再現できない性質」を指します。具体例としては、ユニクロのSPA（製造小売）モデルやAppleの製品デザインが挙げられます。これらは、長年の研究開発や組織的なサポートによって築かれたもので、他社が短期間で真似するのは難しいです。

また、独自の企業文化や、特定の歴史的背景によって形成されたブランド価値も模倣困難なリソースの一例です。

まとめ

自社の経営資源を客観的に分析したい場合、そして経営資源を踏まえて経営戦略を立てたい場合は、VRIO分析を活用するのがおすすめです。

VRIO分析の使い方を理解し、自分たちの会社の強みや弱みを正確に把握することで、戦略的な判断がしやすくなります。本記事の内容が、VRIO分析に興味のある経営者や担当者のお役に立てば幸いです。