お役立ち記事

人事業務は広範囲で多岐にわたるため、工数や作業量も膨大になります。それらをテクノロジーの力で効率化してくれるのが「HRテック」です。今回は、HRテックのサービスを提供している株式会社KAKEAIの代表取締役社長 兼 CEOである本田英貴氏に、「HRテック」の概要や最新のトレンドなどについて、幅広くお話を伺いたいと思います。時代ごとの課題を抱え、変化を求められる人事業務と、それに合わせて進化を遂げた「HRテック」とは。

――まずは、「HRテック」の定義について教えてください。
「HRテック」とは、広範にわたる人事業務をテクノロジーによって効率化するソリューションのことです。1990年代から、アメリカで普及し始め、日本でも利用されるようになりました。日本の人事業務は複雑で工数も多いとされています。それにともなってHRテックも日本独自の進化を遂げつつ、市場規模を拡大しているのです。その市場規模は2019年では342億円、2025年には1,710億円になるのではないかと試算されています。(出典:日本経済新聞,ミック経済研究所、「HRTechクラウド市場の実態と展望 2019年度版」を発刊)
――市場が拡大しているHRテックですが、注目されている理由は何でしょうか。
そもそも、HRテックの目的は煩雑な人事業務を効率化することでしたが、近年はその領域が広がっています。人事が従業員を管理するためではなく、従業員の個人視点に立ったHRテックが増えているのです。たとえば、従来のHRテックでは目標管理、労務管理、タレントマネジメントなど、従業員を管理するシステムが主流でしたが、今ではチャット、ビデオ通話、プロジェクト管理などもHRテックの領域に含まれるようになりました。このような領域の広がりとともに、市場規模もさらに拡大していくと考えられます。
領域が広がっている理由は、従業員の働き方、価値観、置かれている状況などが多様化していることが大きく影響していると考えられます。昨今、労働人口は減り、流動化が激しさを増しています。企業は被雇用者に選ばれるために、従業員一人ひとりの視点から働く環境を整え、エンプロイーエクスペリエンス(良質な従業員体験)の高い企業を目指したい、という考えが高まってきました。
その流れを受けて、HRテックも「一人ひとりの仕事や人生に対し、テクノロジーをどう活用するのか」という方向に広がっています。このような背景から、「HRテック」は、「ワークテック」と呼ばれるようになりました。

――HRテックの代表的なシステムについて教えてください。
HRテックのシステムとしては大きく分けて3つあると考えています。それぞれの概要と導入による効果について解説します。
●労務管理システム
勤怠管理や給与計算、社会保険や福利厚生の加入管理などを効率化するシステムです。労務管理は、どの企業にも発生する業務である上に、従業員一人ひとりの勤怠を正確に処理しなくてはなりません。非常に工数が多い業務ですから、ミスも起こりがちです。この労務管理の効率化が求められ、HRテックの導入が始まりました。
| 【導入による効果】 人事業務の効率化です。複雑な計算処理が必要なときも、システムで自動化すればヒューマンエラーは発生しないので正確性が高くなり、従業員にとっても、勤怠処理が効率化されるなどのメリットがあります。HRテックの中には、タイムカードに打刻させるのではなく、オフィスの入室管理システムの入退出ログや、個人の端末のログで勤怠を管理する労務管理システムもあります。 |
●目標管理・評価システム
従業員一人ひとりのミッションを決めて、その達成度を測り、評価するという一連の業務をサポートするシステムです。成果が給与に紐づくので給与計算にも影響しますが、前述の労務管理システムよりも、現場での業務と関連性が高いと言えます。
| 【導入による効果】 業務の効率化だけではなく、より納得性のある評価を示すことにも役立ちます。人による評価は、評価者の主観が入り、属人的になりがちです。しかし、目標管理・評価システムを使えば、テクノロジーで公平性や妥当性を担保しつつ、等級やグレードに応じた個人の役割を目標として設定できます。その上で、客観的に目標の達成度合いを測るのでフェアな評価をしやすくなりました。 |
●タレントマネジメントシステム
従業員の能力やスキル、これまでの経験などを部署や組織をまたがずに、人事が一元管理できるようした、見える化するシステムです。人事異動や配置を決める際に役立てられます。
| 【導入による効果】 人事異動の際に、従業員と会社にとって最適な部署への配置を考えたり、ミッションの設定を行うことができます。「誰をどこに配置するか」、その分析や判断にこのシステムを活用することで、部署や業務とのマッチング精度の向上を目指せます。 |

――HRテックは国内でどの程度認知されているのでしょうか。また、導入はどの程度進んでいるとお考えですか。
もともと、HRテックは、1990年代のオンプレミスの時代から存在し、特定の業務を効率化するために導入されました。その後、クラウドの技術を活用してさまざまな人事業務に対応したHRテックのサービスが誕生。人事業務全体の効率化にも役立てられるようになっていったのです。
今では当たり前のようにシステムが浸透しているため、「HRテック」という認識を持たないまま利用している人は多いのではないでしょうか。私の実感値としては、日本企業の約4割は、何らかのHRテックを活用していると思います。
――IT技術の進歩が、HRテックに影響している側面もあるでしょうか。
大いに関係していると思います。現在のHRテックを支える技術は、クラウド、AI、ビッグデータの3つがキーです。たとえば、タレントマネジメントシステムは、クラウドに蓄積されたビッグデータをもとに、AIを活用して、「この人物は、このチームや組織で働くのがよい」という最適解を導き出せるシステムです。さらに、このビッグデータは他社のデータもクラウド上に蓄積されているので、一企業の枠を越えた「社会全体での経験値」、つまり“社会知”が、個人にも適用できるようになったということです。これは、HRテックにおける大きな進化と言えます。
――今後、HRテックはどのように進化していくのでしょうか。
モノやサービスが溢れているような時代ですから、どれだけよい戦略を立てて実行しても、あるいはいいものをつくったとしても、それが成功につながるとは限りません。ビジネスの競争環境は、ますます過酷になっていくでしょう。先の見えない、不確実性の高い社会で、従業員は企業に雇用されている状態に安穏とはせず、自分自身でキャリアにつながる仕事を求めるようになるでしょう。そして、その流れを受けて、HRテックもますます個人視点のシステムへと進化していくと思います。
――個人視点のシステムとは、どのようなものと考えればよいでしょうか。
人事のためだけではなく、現場の従業員自身が喜ぶプロダクトであるかどうかが判断基準です。たとえば、会社視点のシステムは、「従業員に入力させる」「人事が現場を管理把握できる」など、管理する側にとって便利な設計ですが、従業員にとっての負荷は少なくありません。だからこそ、個人視点システムでは、「現場の授業員の困りごとを解消する」という従業員目線で設計・開発しているのです。

――個人視点のシステムとして、最近注目しているサービスを教えてください。
よく見かけるのは、エンゲージメントを測るサービスです。テレワークが普及した今、上司と部下のコミュニケーションが希薄になり、エンゲージメントも低下傾向にあります。このサービスを活用すると、エンゲージメントの可視化はできます。ただし、可視化だけでは意味がありません。必要なのは改善です。
その観点で、エンゲージメントを高めるため手段として、マネージャーとメンバーの1on1ミーティングの重要性も増しています。当社も1on1を支援するツールを提供しているのですが、従業員視点であり現場の皆様が助かるツールとして設計しています。このツールを活用することで、1on1で発生しがちな「上司と部下という上下関係が原因で本音が言えない、聞けない」「定期的かつ継続的なミーティングを実施することの時間的・心理的な負担」「双方のコミュニケーション力や対人力に依存しがちで質が向上しない」といった問題を解決できます。
――最後に改めて、HRテックを導入する意義を教えてください。
業務が多岐にわたるため、工数の多い人事業務を効率化させるだけでなく、適正な人員配置など、客観的なデータと分析に基づいて人事業務自体の質を向上させるのがHRテックを導入する意義です。
働き方の多様化を重視するようになった昨今、従業員に選ばれる企業であり続けるためには、HRテック導入前に「人事としての意思決定=現場の従業員に役立つかどうか」を検討することが求められます。ビジネスにおいても、顧客視点を重視し、カスタマーサクセスの向上を目指すことがトレンド視されています。人事領域でも同じことが言えるでしょう。人事領域でカスタマーサクセスに当たるものは、「エンプロイーサクセス」です。HRテックのテクノロジーの基準も、このエンプロイーサクセスを念頭に置くべきであると私は考えています。
後編:HRテックとは何か?②採用テックを導入すべき理由と最新動向【識者に聞く 第2回】
株式会社KAKEAI
代表取締役社長 兼 CEO
https://kakeai.co.jp/
2002年㈱リクルート入社。商品企画、新規事業開発部門などを経て、㈱電通とのJVにおいて経営企画室長。その後、㈱リクルートホールディングス人事部マネジャー。人事では「ミドルマネジメント層のメンバーマネジメント改善」施策や、「Will,Can,Must・人材開発委員会を含む考課・配置・育成等のDX」を実施。2015年にリクルート退職後、スタートアップ数社での役員を経て2018年4月株式会社KAKEAIを創業(創業の想いはこちら )。日本企業で初めて世界のHRtechスタートアップ30社に選出。その他受賞多数。