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採用活動で多くの企業が取り入れているエントリーシート(ES)ですが、近年ではエントリーシート不要論を支持する声も増えています。エントリーシートを廃止すべき理由や廃止することのメリットについて、株式会社アタックス・セールス・アソシエイツの採用コンサルタント 酒井利昌氏に詳しく伺いました。
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まず、エントリーシートの導入状況についてですが、就職みらい研究所(『就職白書2018』※1『就職白書2019』※2)の調査によると、エントリーシートを導入している企業は65.0%(18新卒)から69.0%(19新卒)と増加傾向にあります。企業がエントリーシートを導入する理由をひとことで言ってしまえば、学生をスクリーニングするためです。内容等で足切りに使うケースもあれば、エントリーシートの作成には、それなりの時間と労力を要するため、「提出された=志望度が高い」という目安にするケースもあります。
しかし、もともとのエントリーシートの目的は違いました。履歴書に記載されている学歴ではなく、その人の価値観や考え方に焦点を当てて採用をするために、必要な情報を記載してもらうものだったのです。90年前半にソニー株式会社が採用したのが初めてと言われており、当時、「学歴不問」で大手企業が新卒採用を実施するのは、画期的なことでした。
しかし、90年代後半から就職氷河期が始まり、就職市場は買い手優位へと移っていきます。さらにインターネットが普及したことで、学生が手軽に応募しやすくなり、人気企業は溢れる応募者への対応を効率的に行う必要に迫られました。その一方で学歴社会に対する批判は高まり、求人の門戸はオープンにしなければなりませんでした。そのような流れを受けて、スクリーニングのためにエントリーシートが導入されるようになっていったと考えられます。
理由は大きく2つあります。
企業側の機会損失と、学生の時間をむやみに奪っているということです。
エントリーシートの提出は、就職活動の初期に設定されている場合がほとんどです。採用活動のセオリーは、「集める」→「見極める」→「動機づける」の順番です。しかし、「見極める」ためのエントリーシートは、その性質上「集める」を飛ばして最初に持ってくることになります。つまり、動機づけの前に志望度を測ることになります。とはいえ、この時期の学生の多くは、明確な志望動機を持っていません。学生がエントリーシートを提出するかどうかは、志望度の高さに左右されるため、まだ動機づけができていない優秀な学生を取り逃がしている可能性があります。これをマトリクス図で説明しましょう。

| ①「自社の採用ターゲット」で「自社への志望度が高い」学生を示した象限 ②「自社の採用ターゲット」であるものの「自社への志望度が低い」学生を示した象限 ③「自社の採用ターゲット外」で「自社への志望度が高い」学生を示した象限 ④「自社の採用ターゲット外」で「自社への志望度が低い」学生を示した象限 |
自社ターゲットは①、②の学生です。①の学生はエントリーシートを課してもエントリーしてくるでしょう。問題は②の学生です。彼らは当社のことを認知しているものの、他社と比較して興味関心が高くない場所に位置します。このような学生の場合、エントリーシートを課すことでエントリーを敬遠する可能性が高まります。言うまでもなく、自社ターゲットの学生をどれだけ採用できるかを追求することが採用活動です。しかしながら、エントリーシート提出の義務付けは、その追求とは真逆で、ターゲット学生からのエントリーの可能性を下げる取り組みです。
また、学生がエントリーシートを作成する数は、私の実感では一人あたり15~30社です。まだ学生の動機づけができていない状況であることを鑑みると、エントリーシートを提出するのはその企業のファンだけという可能性が高く、学生獲得の機会がかなり限定されることになります。
1社あたりのエントリーシートを作成するのに、学生は少なくとも1~2時間かけているという調査もあります。しかし、就活初期のため、ほとんどの学生は企業理解が進んでいません。エントリーシートの質問にありがちな「志望動機」「志望順位」「業界を選んだ理由」などに対して、対策本などを参考にした通り一遍な内容になる恐れがあります。
そのようなエントリーシートをもとに面接を進めても、学生の回答とエントリーシートの内容に齟齬が出てしまい、適正な選考はできません。学生の本質に迫る内容を期待できないエントリーシートは、労力をかけたかどうかだけを測るものになってしまいます。それだけのために学生の時間を奪うのはどうなのか、一考すべきでしょう。
私自身が学生時代の就職活動で違和感を持ったことが発端です。それほど強い志望動機がないなかで、志望動機が生まれたストーリーを作らなければなりませんでした。しかも、そのエントリーシートの内容を面接で深堀されることが辛かったです。周囲には、エントリーシートを真面目に作成している学生も多かったのですが、内定を得るために自分の本音でないものを提出することに私は抵抗がありました。少なくとも自分と同じように違和感を持ち、エントリーを躊躇する学生がいることは、想像に難くありません。
また、私が採用に関わる側になった際、エントリーシートの中身で判断するのではなく、特定のキーワードが入っていればOKというような、機械的なスクリーニングに使うケースもありました。これでは、労力をかけた学生にとっても、学生の本質に触れる機会を損なう企業にとっても不幸でしかない、という思いが強くなったのです。

応募数が多すぎて選考が大変という状態でない限り、エントリーシートは廃止してよいでしょう。学生をスクリーニングしたいなら、募集要項に求める人物像を明示することです。ただ、「積極性がある」「チャレンジ精神が旺盛」など、個人の尺度によるものは避けるべきです。重要なのは、客観的な採用基準を明示することです。たとえば、「○○を研究していた」「○○の経験がある」といったように、事実ベースの指標が望ましいでしょう。「〇〇は専門ではないが、隣接分野を研究していた」など、基準に幅を持たせたいときは、説明会やその後の面接などでフォローしていけばよいと思います。
学生と企業の両者にとって、一番やってはいけないのは時間を無駄にすることです。求める人物像を明示すれば、学生自身でセルフスクリーニングすることが可能です。企業としても、マッチしないという学生を選考せずに済みます。
何より、求める人物像の明示は、就職という人生の岐路に立つ学生に対する、企業側の責任でもあります。アンマッチであることを、入口の段階で理解してもらったほうが、学生は他企業への就活に力を入れられます。学生の可能性を閉ざさないためにも、求める人物像の明示は重要なことだと思います。
強いて言えば、採用担当者の人事評価でしょうか。企業によっては、不合格者数を減らすことが評価の対象になっている場合もあります。エントリーシートを廃止すれば、求める人物像を明示してセルフスクリーニングをかけたとしても、間違いなくエントリー数が増えるでしょう。しかし、採用枠が決まっている以上、多くの不合格者を出すことになります。このような理由からも、エントリーシートの廃止にあたっては、採用フローを支える裏側の制度の整備も求めらます。
必要と考えられる対応は2つあります。
エントリーシートの代替ツールとして、チェック式のアンケートを利用する方法があります。選択肢をチェックするだけで済むアンケートであれば、学生も短時間で回答できます。
また、エントリーシートを作成する際、学生は志望動機などのストーリーを考えるあまり、内容を誇張しがちになります。しかしチェックシートであれば客観的に情報を得ることができます。面接で質問のきっかけを得たいのであれば、エントリーシートは十分に機能します。ただし、エントリーシートがなくても面接で情報を引き出せる企業なら、それで問題ありません。
以下にチェックシート例を記載します。ぜひ参考にしてください。
| 【チェックシートの質問項目例】 ・志望業界をチェックしてください(複数回答可) □メーカー □商社 □小売 □金融 □サービス □ソフトウエア・通信 □マスコミ □官公庁・公社・団体 □まだ決まっていない □その他 ・選社基準を教えてください(複数回答可) □ネームバリュー □事業のスケール □業界でのポジション □社会貢献性 □事業の将来性 □若手から活躍できる □ジョブローテーションがある □給与などの待遇 □手厚い教育制度 □大学での学びを生かせる … |
繰り返しになりますが、エントリー数は確実に増加します。そのため、企業は増加したエントリーに対応できる面接体制を整えておく必要があります。もしエントリーの大幅な増加が問題であれば、求める人物像を明確に示し、セルフスクリーニングでエントリー数を絞ることが必要です。
エントリーシートの廃止は、学生のエントリーに対するハードルが下がり、採用の可能性が広がるというメリットがあります。企業にとっても、これまで出会えなかった学生と会うチャンスが増えるため、積極的に取り組むことをおすすめします。就職みらい研究所の『就職白書2022』※3によると、22卒採用では、46.4%の企業が採用予定数に達していないという結果がでています。もし、エントリーの少なさに悩んでいる企業があるなら、エントリーシート廃止だけでも効果が期待できるかもしれません。
就職活動においては、実際に学生と直接やり取りすることで、より良いマッチングができると考えています。確かに、エントリーシートでスクリーニングを行えば面接の負担を軽減できるかもしれません。しかし、負担が増えたとしても、直接学生と対話できる面接を重視する方が、より良い結果を生むと信じています。
参考:
※1:就職白書2018|株式会社リクルートキャリア 就職みらい研究所
※2:就職白書2019|株式会社リクルートキャリア 就職みらい研究所
※3:就職白書2022|株式会社リクルート 就職みらい研究所
株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ
採用コンサルタント
https://www.attax.co.jp/sales/
『いい人財が集まる会社の採用の思考法』著者。学習塾業界、人材サービス業界を経て、現職。営業コンサルタントとして現場指導に従事するとともに、採用コンサルタントとして活動。採用がうまくいかないことが成長のボトルネックとなっている企業が支援対象。独自の営業・マーケティングノウハウを転用した採用力強化メソッドは、15ヶ月間、採用できなかった中小企業を2ヶ月間で成功に導くなど実績多数。「人の力を源泉に成長したい」全国の企業からのオファーが絶えず、無料で採用相談を受けることをライフワークにしている。