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しかし今の時代、彼らの置かれている状況を考えると、家族の影響を受けるのは致し方ないことです。採用担当者の熱い気持ちはわかりますが、現実問題として「オヤカク」は重要なことです。採用フローの一環として、検討してみてください。
「オヤカク」とは、就職活動において親の反対による内定辞退を防ぐための施策です。その実践メソッドや注意点を、株式会社人材研究所の代表・曽和利光氏に詳しく伺いました。リクルート時代の経験に基づいた貴重なノウハウも紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
また、内定辞退にお悩みの方はこちらの資料も参考にしてください。
⇒【Z世代版】内定辞退を防ぐ6つの例内定者フォローがなぜ今、注目されているのか?

「オヤカク」とは、狭義的には子どもの内定について、保護者(親)の意向を確認することを指します。もし保護者が反対している場合、内定辞退のリスクが高くなるため、対策を立てる必要があります。そのため、広義的には「親の決裁を確定させること」までを「オヤカク」と呼ぶ場合もあります。
2021年1月、株式会社マイナビが、保護者1000名を対象に『就職活動に対する保護者の意識調査』を実施しています。大学4年/大学院2年で今年就職活動を終えた、もしくは現在活動中の子どもを持つ保護者が対象です。調査によると、保護者が子どもの就職先に望むことは「経営が安定していること」が51.5%と大半を占め、入社希望業界は「官公庁・公社・団体」が最多となっています。また、学生自身も「安定志向」が高まっている傾向にあります。

(出典:2021年度 就職活動に対する保護者の意識調査|株式会社マイナビ)
同じく株式会社マイナビの発表した『2022年度(23年卒版)新卒採用・就職戦線総括』によれば、「企業選びのポイント」については、「安定している会社」が、ここ20年間右肩上がりです。対照的に長く1位の座を守っていた「自分のやりたい仕事(職種)ができる企業」は減少傾向にあり、2020年以降は「安定している会社」に逆転されています。

(出典:2022年度(23年卒版)新卒採用・就職戦線総括|株式会社マイナビ)
安定志向が顕著になっている背景として、学生の保護者が、就職関連でひどい目にあってきた世代のためと考えられます。就職活動中はいわゆる就職氷河期であり、2008年のリーマンショックでは早期リストラ対象になったのもこの世代です。“平成の失われた30年”とはよく言ったものですが、就職関連の苦労を保護者も、その姿を間近で見ていた学生も、ひしひしと感じていたのではないでしょうか。それが、安定志向につながっていると思われます。
また、少子化によって、一人っ子が増えていることも一因と考えられます。老後のことを考えると、何人か兄弟や姉妹がいる場合は、誰かが地元に残ってくれればよいとなりますが、一人っ子の場合はその子しかいません。保護者が、子どもに地元での就職を期待するのも無理はないでしょう。
このほか、直近の災害などによる社会不安も大きく影響しています。学生たちもリアルタイムで、2011年の東日本大震災、2018年の西日本豪雨、2019年の関東一円を襲った台風15号、そして2020年のコロナ禍などを経験しています。社会不安が起こると、就職活動も保守化する、それは私が30年間就職市場を見てきて、変わらず繰り返されている現象ですね。
先述した『就職に対する保護者の意識調査』によると、保護者の約49.9%が内定確認の連絡があった、つまり「オヤカク」を経験したと回答しています。
そもそも新卒採用は、学生の背後で意思決定に大きな影響を与えている人にも気を配る必要があります。それは、恋人や就活仲間、先輩、友人、先生などさまざまです。なかでも今は、保護者からの影響が大きい傾向にあるので、今後の採用活動において「オヤカク」はマストと捉えるべきでしょう。

(出典:2021年度 就職活動に対する保護者の意識調査|株式会社マイナビ)
保護者の世代に人気がある認知度の高い企業は、逆に保護者が勧めてくれるので「オヤカク」は必要ないかもしれません。保護者は、学生より社会人経験や世の中の知見も豊富です。ただ、自分の関わる業界に詳しくても、そこから外れると実態を理解していないケースはよくあることです。
残念ながら認知度の低い、メガベンチャー、新しい勢力の企業は「オヤカク」に取り組む方がよいと思います。外資系企業においても実施することをおすすめします。
典型的な例は内定辞退です。「承諾間違いなしと思っていたのに…」と驚く採用担当者も少なくありません。
私の経験上、本人が迷っている場合は予兆として受け止めることができるので、びっくりするような内定辞退はほとんどありません。しかし、保護者の反対は大どんでん返しになりがちなのです。たとえ学生が自立した完璧な人物だったとしても、私たち面接官と築いた関係性は、せいぜい1年弱。保護者との関係性のほうが遥かに濃く、それを無視できる学生はほとんどいないでしょう。学生の固い意志は、残念ながら当てにできないのです。
リクルート時代の話ですが、保護者から「面接で不合格にしてほしい」と依頼されたことがあります。「子どもは、あなたたちのインプットで洗脳されているから、私たちの言うことを聞かない。だから、そちらで落としてほしい」というもの。「ここまでするのか」と驚きました。結局、個人情報保護の観点から対応できない旨を丁寧にご説明し、諦めていただきました。
このほか、保護者から「一度会社を見たい」と連絡を受けたこともありました。子どもの勤める会社をよく知りたいというご要望で好意的なケースではありましたが、緊張しましたね。

一番シンプルなメソッドは、学生に直接ヒアリングすることです。具体的には、次のようなステップで進めます。
就職活動の上で、相談に乗ってもらっている人、アドバイスしてくれる人について聞くことです。もし、ここで保護者の方が挙がらなかった場合、「親御さんはどうですか?」と、単刀直入に問いかけてみましょう。
保護者が相談相手という場合は、どのようなことを話しているのか、内容をヒアリングしましょう。基本は会社選びの軸について、保護者の方がどのように考えているのかを聞くとよいでしょう。大手志向、地元志向、穏やかな社風など、だいたいこのような軸が挙がってくるはずです。最初は一般論の話から始めると、学生の警戒も解くことができます。
これは、「オヤカク」で絶対に抑えたいポイントです。保護者の自社に対する印象や感想を、しっかり学生から聞き出しましょう。(1)~(2)まで取り組んでいる企業は多いのですが、この(3)まで踏み込んでいないケースが多いようです。学生が保護者から自社の印象を聞いたことがない場合は、次の面談までの“宿題”として、ヒアリングしてきてもらいましょう。ここで得る情報が、対策を立てるために非常に役立ちます。
もし、頼んだのに学生が聞いてくれない場合、保護者との関係が複雑である場合もありますが、往々にして志望度が低い可能性が高いです。志望度が低ければ、家族とわざわざ話すこともありません。「オヤカク」は、学生が自社をどのぐらい重視しているのかを知る目安にもなるでしょう。
保護者が感じている不安や誤解を把握したら、それらを解消できる情報を「武器」として学生にインプットしましょう。それをもとに、学生に保護者を説得してもらいます。採用担当者が直接保護者とコミュニケーションを取ってしまうと、圧迫感があって印象が悪くなる恐れがあるからです。
そのため、ここは学生に頑張ってもらうのが得策だと考えます。このとき、提供する情報は「第三者による社会的な証明のある事実」が望ましいでしょう。具体的には本やニュース、ランキングなどが挙げられます。
予防線を張るために、保護者に会社案内のパンフレットを送るという手もあります。「ご子息がご入社する当社を知っていただきたくて」という理由で問題ないでしょう。
心構え、時期、準備の観点から、次のことに注意しましょう。
保護者は疑ってかかっているという前提を忘れないことです。マイナスイメージからスタートしているので、きらびやかな情報ばかりだと胡散臭く思われてしまうでしょう。学生相手の場合は、将来の自分と未来の会社をマッチングするものなので、夢があってもいいと思います。
ただ、保護者は今の現実をシビアに見つめる社会人です。今のリアルな情報をもとにした、地に足のついた説明のほうが心に届くと考えます。
「オヤカク」は早いに越したことはありませんが、学生の第一志望が固まっていない段階で行うのは考えものです。採用担当者も、採用する可能性の低い学生に「オヤカク」を行うことになるため、負担が大きくなります。かといって、遅すぎると保護者の説得が間に合わない場合もあります。
それらを加味すると、実施の時期は内定を出すと決めた段階がベストです。具体的には、最終面接の手前くらいでしょうか。口説き始めるタイミングになったら、「オヤカク」を組み込んでおくべきでしょう。
「オヤカク」で判明した不安や疑問に対して、その解消に使える情報を日頃からストックしておくことをおすすめします。「オヤカク」を続けると、不安や誤解はだいたい類型化できるので、それに合わせて情報をボックスなどに分類しておくと、なお効率的です。
私もリクルート時代、オヤカクで挙がってきた問題に、薬を処方するように情報を取り出していました。今はネットでもすぐに調べられますが、ストックしておいたほうが便利だと思います。
就職活動を本質的に考えれば、就職は個人の意志が尊重されるものです。採用に関してポリシーをもって臨んでいる人ほど、保護者の話をあえて取り上げる必要はなく、むしろすべきではないという思いがあるでしょう。実は、私の本音も、保護者に取り入るような「オヤカク」を情けなく思っています。
しかし今の時代、彼らの置かれている状況を考えると、家族の影響を受けるのは致し方ないことです。採用担当者の熱い気持ちはわかりますが、現実問題として「オヤカク」は重要なことです。採用フローの一環として、検討してみてください。
株式会社人材研究所
代表取締役
https://jinzai-kenkyusho.co.jp/
リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験、また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や情報経営イノベーション専門職大学客員教授も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。