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「エバンジェリスト」という言葉を見聞きしたことはありますか。
今回は、近年注目を集めるエバンジェリストの役割や必要性をはじめ、企業にてエバンジェリストを採用するメリット、エバンジェリストの業務内容などについてご紹介します。あわせて、エバンジェリストに求められる能力も解説しているので、ぜひご覧ください。
エバンジェリスト(evangelist)とは、「伝道者(福音を説く人物)」を意味する英単語です。キリスト教の世界で用いられている言葉であり、具体的には「信者を増やすため、キリスト教の教旨を民衆に伝える活動を行う人」を指します。そこから転じて、ビジネスでは「IT業界における職種の一つ、いわゆるIT技術をユーザーや社員にわかりやすく説明し啓蒙する人物」を意味します。
エバンジェリストの役割は上述のとおり、高度で複雑なIT技術をユーザーや社員にわかりやすく説明し、理解を促すことです。たとえば、企業が最新のIT技術を用いてサービスを展開したとしても、それをユーザーが理解し正しく使えなければ元も子もありません。そのため、エバンジェリストは常に使用者(この場合はユーザー)の目線に立って丁寧に説明する必要があります。
また、ユーザーや社員が抱える課題の解決策を考え提案することもエバンジェリストの役割です。このとき、ただ解決策を提案するだけでなく、未来につながる価値を創造することも求められます。
2019年に経済産業省が発表した「IT人材需給に関する調査」によると、2030年のIT人材の需要と供給の差(標準的な条件として生産性上昇率を0.7%とした場合)は以下のようになっています。
(※ 無印:需要数>供給数、△:供給数>需要数) 参照:- IT 人材需給に関する調査 - 調査報告書|経済産業省
つまり、2030年のIT人材の需給ギャップは需要が供給を大幅に上回り、それぞれ上記の人数が不足するという結果が出たのです。
にもかかわらず、多くの企業では「必要とするIT人材が不明瞭」という状況です。とくに、ITとは無縁だった業界はこうした傾向が強いと考えられます。このままでは、目まぐるしい変化・進化を遂げているIT技術を取り入れられず、時代にあった事業に取り組めなくなってしまう可能性もあります。
そこで必要になるのが、IT技術の全体的な知識のほか、IT技術を社員やユーザーにわかりやすく説明し啓蒙できるスキルも備えているエバンジェリストの存在です。
エバンジェリストは、自社の商品・サービスを多くのユーザーに受け入れてもらうための土台を作る、いわば「未来の市場を育てる」という大きな役割を担っています。そのため、ITとは無縁だった業界に限らず、すべての業種で導入する意味は大いにあるでしょう。
こうした背景から、エバンジェリストの必要性が高まったと考えられます。
エバンジェリストと類似する職種に「営業」「広報」「アンバサダー・インフルエンサー」がありますが、それぞれで担っている役割は異なります。
「説明する(伝える)」という共通点から、エバンジェリストと営業はほとんど同じではないかと考える方もいるかもしれませんが、これら2つには明確な違いがあります。
| エバンジェリスト | ユーザーや社員に対し、IT技術をわかりやすく説明し啓蒙する |
| 営業 | 見込み客やユーザーに対し、商品またはサービスの特徴・メリットを伝え、成約や契約継続につなげる |
エバンジェリストの目的が「啓蒙」であるのに対し、営業の目的は「成約・契約継続」です。この点が、これら2つの大きな違いといえます。
「説明する(伝える)」という点から、エバンジェリストは広報と混同されることもあります。
| エバンジェリスト | ユーザーや社員に対し、IT技術をわかりやすく説明し啓蒙する |
| 広報 | 自社の活動方針を社会に伝えることで企業価値を構築し、社会の共感を得る |
エバンジェリストと似た部分もありますが、広報には「啓発」という目的があまり含まれていません。そのため、エバンジェリストと広報は「その役割に啓発が含まれているか否か」に違いがあるといえます。
「説明する(伝える)」という点や影響力から、エバンジェリストは「アンバサダー」「インフルエンサー」と同一と認識されることもありますが、それぞれの役割は異なります。
| エバンジェリスト | ユーザーや社員に対し、IT技術をわかりやすく説明し啓蒙する |
| アンバサダー | 「大使」という形で、自社の商品やサービスの広告塔となり宣伝する |
| インフルエンサー | 商品やサービスを宣伝し、ユーザーの購買意思決定に影響を与える |
伝える内容に関して、エバンジェリストが「IT技術」であるのに対し、アンバサダーとインフルエンサーは「商品・サービス」になるため、これがひとつの相違点といえます。
また、エバンジェリストは「啓蒙」が目的であるのに対し、アンバサダーとインフルエンサーは「宣伝」が目的であることから、これも大きな違いといえるでしょう。くわえて、エバンジェリストはあくまでも中立的な立場です。「自社の商品やサービスについて伝えて終わり」ではなく、業界全体を把握した上でより正確に情報を伝える役割があります。
こうした点からも、エバンジェリストとアンバサダー・インフルエンサーはまったく異なる職種といえます。

企業にてエバンジェリストを採用するメリットは、以下のとおりです。
エバンジェリストがいると、自社で扱う商品・サービスの強みや魅力、活用法を正しく広く発信することができます。これにより、企業そのものの認知向上が見込めます。
また、エバンジェリストは企業とユーザーの中立的な存在です。そのため、商品・サービスのメリットとあわせてデメリットも伝えます。こうした公平な情報発信は、商品・サービスはもちろん、企業の信頼向上にもつながると考えられます。
エバンジェリストを採用し、その知識・技術を社員に展開した場合、商品やサービスの価値向上につながります。具体的には、既存商品・サービスの改善や新たな事業の実施が比較的容易になり、自社の商品・サービスをさらに磨くことができるのです。その結果、ユーザーやクライアントから今まで以上に信頼を得やすくなります。
上述のとおり、エバンジェリストがIT技術について説明する対象には社員も含まれます。そのため、エバンジェリストを採用することで、社員一人ひとりのITスキルが成長しやすくなるのです。これは、企業としての能力の底上げにつながるため、幅広い事業にチャレンジできるようになります。
また社員自身、自社の商品やサービスの価値を正しく理解できるようになるので、仕事に対するモチベーションアップも期待できます。
企業にてエバンジェリストを採用した場合、具体的にどのような業務を任せればよいのでしょうか。以下で、代表的な4つの業務についてご紹介します。
まず挙げられるのは、プレゼンテーションです。イベントやセミナー、展示会にて、多くの人に向けて自社の商品・サービスをアピールします。高度で複雑な内容をわかりやすく説明し、購入・成約につなげるのが目的です。
プリセールスエンジニアとは、IT技術を用いた商品・サービスの仕組みをユーザーやクライアントにわかりやすく説明する人物のこと。このポジションにはIT技術に関する知識が不可欠なため、エバンジェリストが担当することが多いといえます。
インナーマーケティングとは、自社の企業理念や行動指針、商品・サービスの価値を社員に浸透させる取り組みのこと。中でもエバンジェリストに関係しているのは、後者の「商品・サービスの価値を社員に浸透させる」という部分です。これを実現できると、業務の質向上や社員のモチベーションアップにつながり、顧客満足度の向上を図りやすくなります。
エバンジェリストには、最新のIT業界・IT技術を常に網羅することが求められます。そのため、日頃から情報収集を行うことが欠かせません。また、これは商品・サービスの研究にも役立つので、さらに磨きをかけるという意味でも重要な業務といえます。

では、具体的にどのような能力を備えた人材がエバンジェリストになり得るのでしょうか。
繰り返しになりますが、エバンジェリストとは「IT技術をユーザーや社員にわかりやすく説明し啓蒙する人物」です。そのため、IT業界・技術に関する高い知識が備わっている人材は、エバンジェリストに向いているといえます。トレンドから最新情報まで幅広い知識が身についている人ほど、のちに前述したような業務を任せやすいといえるでしょう。
エバンジェリストの業務のひとつに、イベントやセミナーでのプレゼンテーションがあります。このとき、商品・サービスの魅力をユーザーまたはクライアントにしっかり届けるには、情報を正しく伝えるのと同時に、相手を惹きつけるような声のトーン・抑揚、表情を意識することが大切です。そのため、プレゼンテーション能力が備わっている人材は、エバンジェリストに向いているといえます。
ユーザーやクライアントとの対話を通して、課題を察知したり理解度を確認したりするのもまた、エバンジェリストに必要な能力です。そのため、もともとコミュニケーション能力が高い人材は、エバンジェリストに向いていると考えられます。課題の解決方法を提案する際も、相手の立場になってわかりやすく伝えられるでしょう。
エバンジェリストは、自社の商品・サービスを多くのユーザーに受け入れてもらうための土台を作るだけでなく、ブランドイメージを向上させる役割も担っています。具体的には、専門的な着眼点で業界を捉えつつ商品やサービスを提案する必要があります。
また、経営者に代わってプレゼンテーションを行うケースもあり、その際は堂々とした態度で説明しつつも冷静な視点を備えておかなければなりません。
これらの点から、経営者としての視点を持ち合わせ、競合他社と比較したときの「自社の強み・弱み」や「自社のポジション」を理解できる人材は、エバンジェリストに向いていると考えられます。
エバンジェリストには、いかなるときも高い向上心を持つことが求められます。なぜなら、業界やITの最新トレンドをいち早く得て、知識として身につける必要があるからです。また、商品やサービスのメリット・デメリットをユーザー目線で把握するため、実際に使用(利用)して分析するなど、研究に対して熱心な面も必要になります。
こうした点から、向上心のある人材はエバンジェリストに向いていると考えられます。
エバンジェリストと名乗る上で、取得が必須な資格はありません。ただし「ITストラテジスト」や「システムアーキテクト」「プロジェクトマネージャー」などIT関連の資格を取得している人材は、いわば高度なIT知識を有しているということになります。そのため、もしエバンジェリストを新たに採用する場合は、これらの資格を持っているか確認するのも一案です。

では、今いる社員をエバンジェリストに育成するにはどうすればよいのでしょうか。
まずは、エバンジェリスト候補となる人材を選出しましょう。エバンジェリストにはIT技術・サービスに関する専門的な知識が求められるため、自社のエンジニアまたはプログラマーから候補を見つけるのも一案です。その中に研修やセミナーの講師経験がある人材がいる場合は、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力が備わっている可能性が高いため、エバンジェリスト候補として最適といえます。
もし社内に候補となる人材がいない場合は、採用・ヘッドハンティングするとよいでしょう。その際は自社の採用条件とあわせて、エバンジェリスト候補に求める条件も明示することが大切です。
エバンジェリストとして業務を遂行する際の目的は、自社の経営方針とマッチしていなければなりません。そのため、候補となる人材が決まったら、その人材に今の経営状態や今後の経営方針などを共有することが大切です。このステップを怠ると、エバンジェリストの業務に不備が生じて前述したメリットを得られなくなる可能性があるため、欠かさず実施するようにしましょう。
エバンジェリストには専門知識だけでなく、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力も必要になるため、研修や勉強会を実施することも大切です。具体的には、「エバンジェリスト候補に社外で研修を受講してもらう」「外部講師を招いて社内でエバンジェリスト向けの勉強会を開催する」といった方法が挙げられます。
ただし、エバンジェリストに必要な能力を短期間で習得させるのは困難です。とくに、ユーザーとの対話やプレゼンテーションに必要なスキルは、座学だけでは身につきづらいと考えられます。
そのため、たとえばすでにIT技術を備えている社員を育成するなら、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力が必要になる部署(例:営業部)に異動させるのも一案です。実践的に学ばせてトライ&エラーを繰り返すことで、効率よくエバンジェリストへの成長をサポートできます。
最後に、日本を代表するエバンジェリストを2名ご紹介します。
西脇資哲氏(以下 西脇氏)は、2009年に日本マイクロソフト株式会社に入社しました。
同社が手掛ける商品・サービスは、競合企業が多いのが特徴です。その中で、西脇氏は「ユーザーとの一体感を高めるプレゼンテーション」を実施し、ユーザーの問題解決をサポートするため、同社の商品・サービスならではの世界観やメリットをわかりやすく説明しました。
ガイ・カワサキ氏は、元・アップルコンピューターのエバンジェリストです。
アップルが初代Macintoshを発売したのは1984年のこと。この当時、Macintoshに対応するソフトはほとんどありませんでした。そこでアップルはエバンジェリストという職種を設けて、外部のソフト会社に対してMacintosh用のソフト開発を交渉する役割を作りました。
エバンジェリストは、IT技術を経営戦略の根幹としている企業にとって欠かせない存在です。根幹とまではいかなくても、自社で扱う商品やサービスにIT技術を活用している場合は、エバンジェリストの必要性は高いといえます。
エバンジェリストを新たに採用すると、社外からの認知・信頼を獲得できたり社員のITスキルが成長したりと、さまざまなメリットを得られます。企業の拡大・成長のためにも、この機会にエバンジェリストに目を向けてみてはいかがでしょうか。
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