お役立ち記事

後半も引き続き、日本能率協会コンサルティング(JMAC)HRM革新センターのチーフ・コンサルタント、村上剛氏にご登場いただきます。前半は、人事評価の機能やトレンドなどをお話しいただきました。後半では、評価項目の構成要素や、関連して使用されている制度などに加えて、人事評価制度を作成するにあたっての、重要なポイントや考え方にも触れていただきます。チーフ・コンサルタントとして、数々の現場に関わってきた知見と、人事評価に対する熱い思いをお聞きください。
前編:事評価制度のつくり方①人事評価制度をつくる目的を整理する【第1回 人事のプロに聞く】

―人事評価の一般的な評価要素としてはどのようなものがあるか教えてください。
一般的には、主に「能力」「行動」「業績」が挙げられます。
●能力
能力評価の項目では、「職務遂行能力(専門能力)」、「課題解決能力」、「対人対応力」などがあります。
「職務遂行能力」とは、各職務の遂行で求められる知識や技能のことです。バブル崩壊以降、成果主義の導入が進んだことにより、知識を“持っていること”ではなく、“活用してどのように成果につなげていくか”に主眼が置かれるようになりました。そのため、近年では、「知識」を評価項目として取り上げるケースが少なくなりました。技能については、各職場のスキルを体系化して人事評価につなげることがありますが、人事評価につなげずに育成だけに活用することもあります。
「課題解決能力」は、課題を把握し、解決策を考え、実行するための能力です。一般的には、理解力、判断力、企画力、開発力などが挙げられますが、課題設定力や課題遂行力など課題解決のプロセスで評価項目を設定することもあります。
「対人対応力」は、相手とスムーズな意思疎通や関係構築ができる能力です。一般的には、表現力、折衝力、指導力、育成力などが挙げられます。リーダーシップや共感力、巻き込み力、ティーチング・コーチングなどといった項目がこの中に含まれることもあります。
●行動
「行動」を評価するもののひとつに、「情意評価」があります。一般的には、規律性・責任性・積極性・協調性の4つの観点から評価します。 このような仕事に対する姿勢や態度だけでなく、行動全般を評価する場合もあります。例としては、バリュー行動といった、クレド(行動指針)などの企業の価値観を評価項目に落とし込んだものが挙げられます。そのほか、コンピテンシー(高業績者の行動特性)という表現で、達成志向性や革新行動、リーダーシップなどの評価項目が設けられることもあります。これらにより、顕在化した能力を見ようとしています。
●業績
売上や利益といった業績数値や課題の達成度、通常業務の出来栄えなどが評価項目にあります。業績数値や課題の達成度は目標達成度として評価されることが多く、たとえば「シェア獲得〇%」「新規開拓〇件」のように設定されます。また通常業務の出来栄えは業務実績をもとに評価されます。

―人事評価の際に、評価項目の情報ソースとしてさまざまな制度が利用されています。それぞれの特徴や、メリット・デメリットについて教えてください。
●目標管理制度(MBO)
これは、業績評価における目標達成度を実施するツールとして多くの企業で活用されています。そもそも目標管理制度は業績を管理するシステムですが、現在は人事評価にも活用されています。組織の期待と個人の意志を踏まえて上司と部下で認識をすり合わせ、目標を設定します。
メリットは、組織の目標と個人の目標を一致させられること、個人の成果が見えやすいことです。一方、デメリットは、“やらされ感”が出てしまうこと。動機づけの管理手法として、組織の期待を受けて部下の意志で目標を決めることにはなっていますが、「目標となる数字は上から降ってくる」といったように、受け身の目標と成り下がってしまうことが実態としてよく見受けられます。
このデメリットが生じる原因は、目標管理制度(MBO)の本来の目的が、日本では誤解されがちだからです。この制度を最初に紹介した経営学者のピーター・ドラッガーは、「Management By Objectives and Self Control」と提唱しています。実はこの「Self Control(自己統制)」こそ、この制度の核なのです。つまり、目標管理制度とは、自身で課題を抽出し、自身で目標を定め、自身で評価することで、主体的に業務に取り組めるようにするという、社員の自発的な動機づけを目的としているのです。
しかし、「Self Control(自己統制)」を重視する考え方が日本ではあまり浸透しておらず、むしろ「組織の目標を達成するために、個人の目標を上司が誘導し、“管理”する制度と受け取られるケースがあります。結果として、社員の意欲を削ぐという、本来とは正反対の結果をもたらすこともあるのです。
また、個人の目標設定をしたら、「あとは自己責任」と本人任せにするケースも少なくありません。目標管理制度(MBO)を業務管理システムとして十全に機能させるためには、単に目標を定めるだけでなく、目標達成に向けて時間軸を含めたアクションプランを立て、本人が主体的にPDCAをまわせるように上司がサポートすることが大切なのです。このようなサポートがあってこそ、自発的な動機づけを実現できます。
●コンピテンシー評価
コンピテンシー評価は、能力評価もしくは行動評価として人事評価で用いられることがあります。コンピテンシーとは、自社で高い業績を挙げている社員の行動特性を指しています。「彼らが高い業績を挙げるためにどのような行動をとっているのか」を調査してまとめた行動特性を、評価項目として転用します。もともとは、アメリカの国防総省が採用の際の選考基準として用いたものでした。それが、目標管理制度(MBO)と同じように日本に導入され、人事評価にも使われるようになったのです。
コンピテンシーは、自社の高業績者の行動特性に基づいているので、再現性が高く、成果に結びつけやすいことがメリットとして挙げられます。一方、デメリットは、コンピテンシーの抽出に時間がかかることです。ある時点で高業績者にインタビューして調査して自社に応じたコンピテンシーを抽出します。しかし、環境変化に応じて求められる成果や行動も変わり、コンピテンシーの見直しも必要になってくるのでメンテナンスの工数がかかります。 しかし、調査に時間がかかるからといって、自社以外のコンピテンシーを使用することは望ましくありません。コンピテンシーは、自社の事業や業績達成に紐づく行動特性であり、自社で調査して得たものでなければ、あまり意味がないためです。

●360度評価(多面評価)
一般的に、社員を評価するのは上司ですが、360度評価では上司はもちろん、同僚や部下、他の部署の社員など、その社員に関わる人が参加して評価します。360度評価は毎期の人事評価よりは、昇格や配置転換などの際のアセスメント(=本人の資質や特性を明らかにすること)として使用されるケースが多いと思います。
メリットとしては、本人の特性を多方面から明らかにできることです。一方、デメリットは、360度評価の運用に工数がかかることです。特に部下や同僚からの評価では、どうしても主観的な評価(好き嫌い評価)になりがちなので、人事としても客観性を担保するための基準をしっかりと設定しなければなりません。また、誰を評価者にするかを評価対象者ごとに考えなければいけないので、人事部門側の工数が結構かかります。評価する側に評価スキルを身につけてもらう研修も実施すればさらに工数がかかります。

―どのような判断基準で人事評価制度を吟味すればよいか教えてください。
大前提として、「他社が採り入れているから」という理由で人事評価制度を導入してはいけません。成果主義がはやった時は「これからはコンピテンシーだ」という言葉をよく耳にしました。最近では、「ジョブ型雇用を入れないと乗り遅れる」といった言葉を聞くことも少なくありません。しかし、人事評価担当者は、たとえトップからこのような指示があったとしても、「自社にとって必要な改革は何か」といった本質を捉えて、「その改革を実行するために必要な人事制度は何か」という観点から考えないといけません。
人事評価は自社の経営戦略や事業戦略に紐付いています。検討している人事評価制度が経営戦略や事業戦略を実現するツールとして相応しいのか、冷静に判断しなければなりません。 経営方針が転換すれば、人事評価制度も変わります。たとえば、「従来型の職能資格制度だったけれど、成果重視型に切り替えたので、成果を測るためのツールとして目的管理制度を採用する」、「新規事業に積極的に取り組めるよう、社員の意識を変える必要がある。よって、チャレンジ行動を重視する」というように、目的に合わせて人事評価制度を検討していきます。それぞれの企業の実状を踏まえた上で、自社に合った人事評価制度を吟味することが重要です。

―最後に、人事部で奮闘している人事評価担当者へメッセージをお願いします。
人事制度には思想があり、その思想が人事評価制度を構築するときの判断基準になります。自社独自の思想がなく、他社と同じ人事制度をつくっても競争優位性は生まれません。繰り返しますが、人事制度は、経営戦略や事業戦略に基づくものなので、人事制度が同じということは、経営戦略や事業戦略も他社と変わらなくなってしまいます。
また、人事制度の変更は会社全体に大きな影響を及ぼします。たとえば、ジョブ型雇用を採り入れるとなると、採用から、異動配置、育成まで、全面的な見直しが必要になります。加えて、人事権を現場のマネージャーに移譲する必要性も高まります。そういうことも含めて意思決定する必要があるので、経営陣には覚悟が求められます。
ともあれ、人事評価制度の変更は、制度を実際に運用する現場の理解が必要です。現状の制度では何が問題なのか、なぜ制度を変更する必要があるのかを現場の社員に腹落ちしてもらえないと、制度は形骸化してしまいます。一度の説明で納得してもらおうと思わず、対話の機会や研修などを重ね、根気強く働きかけていく必要があるのです。
ここでの研修では評価者に対してだけでなく、被評価者に対しても実施することが有効です。これにより、人事評価に対しての“共通言語”が生まれます。評価の納得性を高めるためには上司と部下のコミュニケーションが欠かせません。その時に“共通言語”があると意思疎通がスムーズになります。 人事評価制度は往々にして、単なる査定ツールに成り下がってしまいがちです。本来の人事評価とは、上司にとってはマネジメント・ツール、部下にとってはセルフ・マネジメント・ツールとして活用できるものです。ぜひ人事評価制度を活用して育成・成長を促進し、経営戦略・事業戦略の実現に結びつけてほしいと思っています。
株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)
ラーニングコンサルティング事業ユニット ユニット長
HRM革新センター センター長
チーフ・コンサルタント
大手事業会社で、人事・総務・経理、経営企画・管理、法人営業、業務改善コンサルタントなど、さまざまなキャリアを積む。2006年にJMAC入社後は、人事制度改革・人材育成の仕組みづくりなどを専門に手掛ける。近年は、ビジネスに貢献するHR、ダイバーシティ推進、働き方改革などを通じ、企業の経営や事業への貢献を目指している。2016年、財団法人全日本能率連盟 第57回論文発表大会 経済産業大臣賞受賞(「経営・事業戦略を実現する人材」を増やす人材資産マネジメント」~資産発想アプローチによる実践的人材開発手法~)。