学生が選考を自由にカスタマイズ

・自由度の高い新卒採用を行っているそうですね。どんな特徴があるのでしょうか?
川上:「就活維新」と銘打ち、選考フローを自身で自由にカスタマイズできるのが最大の特徴です。学生が力を最大限に発揮できるように、2019年からこの形式にしました。
久保:応募に必要なのは、名前・生年月日・メールアドレスの3つの情報のみで、エントリーシートは不要です。代わりに、まずは自己PR動画をお送りいただきます。フォーマットはなく、自由な動画でOKです。その後はAIによる面接「AIインタビュー」を受けます。動画とAI面接で合否は判定しません
カスタマイズできるのはここからで、選考内容や選考回数を自由に選択できるんです。「Free Styleセレクション」と呼んでいるのですが、面接を1on1トークにするか、グループディスカッションにするかはもちろん、面接官やトークテーマまで選べる設計です。選考は最大3回まで受けられる上、総合評価なので途中で不合格にはなりません。毎回選考後に我々からフィードバックを行うので、次の選考で改善して挽回する学生もいます。

川上:最大3回の選考の間、学生は好きなタイミングで最終面接にチャレンジする意思表明「Finalコール」を行います。選考の初期段階で手応えを感じた人や、早く内定を取りたい人はすぐに最終面接にチャレンジしてもよし。納得いくまで選考を受けてから最終面接に臨んでもよし。選考の終え方までも自身でカスタマイズできるんです。
久保:最終面接で不合格になっても再度選考にチャレンジできる「トライアウトリベンジ」も設けています。初挑戦時には、緊張で本来の力を発揮できない人もいますが、不合格になってからの方がリラックスできたり、志望度がさらに上がったりする人もいるんですよ。実際全体の1割ほどは、この「トライアウトリベンジ」で内定を勝ち取っています。
大事なのは「ジャッジ」ではなく
「マッチ」

・自由度が高くまるでゲームのようですね。なぜこのようなスタイルにしたのでしょうか?
川上:学生には一人ひとり、得意・不得意がありますよね。集団の中で輝く人もいれば、1on1の対話が得意な人もいる。それぞれが最高の条件のもとで挑んでいただきたいと思ったんです。
採用で目指すのは、企業が一方的に学生をジャッジすることではなく、企業と学生がマッチすることです。そのため選考は相互理解を深め、マッチ度を測るためにあります。できる限りの環境をご用意するのは、企業として当然のことですし、ぜひ楽しんでのびのびと挑んでいただけたらと思っています。
・選考で合否を判断するどころか、合格へ導いているようにさえ感じます。
川上:採用チームの役割は特にそうですね。面接に向けた準備を一緒に行うというスタンスです。事業への理解が不足していれば補ったり、不安があれば払拭したりしてお互いの理解を深めていきます。
準備不足で最終面接に臨んでしまうと、お互いにとって大きな機会損失となりかねません。企業も学生も100%出し合って選考を終えられるように最善を尽くすことを意識しています。「こんな面白い選考は受けたことがない」という声も多いですね。ですが、入社後はもっとチャレンジングですし、日々思いも寄らないことが起こるはずです。だからこそ、この選考を楽しんでもらいたいし、前向きに変化を楽しめる方は、当社ともマッチしやすいと考えています。

どこまでも「学生ファースト」を
追求した採用活動

・内定後のフローも「就活維新」で変更したそうですね。
久保:はい、内定時に配属先を確定させるように変更しました。そして、採用チームが学生と話す機会も増やしました。内定後の面談を1回から3回に増やしただけでなく、対面での座談会や懇親会も定期的に実施しています。また、オンラインツールで内定者とのコミュニティを作りました。我々とだけでなく、内定者同士の仲も深まっています。
・それらを変更した背景には、何か課題があったのでしょうか?
久保:内定後の辞退を減らすためです。前年度に「入社後のイメージが具体的に持てた企業を選んだ」といった辞退理由が多くあったんです。相互理解や、入社後の業務の理解が足りていないと感じ、変更しました。
川上:実際に、話す回数を重ねるほどにお互いに打ち解けていくのを感じます。思わぬ本音や意外な一面が見えたりして、私たちも採用活動がさらに楽しくなりました。
久保:入社後の仕事内容について不安を抱えている学生には、配属予定先の先輩社員に会ってもらうなど、以前よりも具体的なサポートができるようになったことも変更の利点です。
今の学生は、将来のキャリアビジョンを明確に持っている方が多いので、配属先や仕事内容が入社前から分かっているというのは、とても安心感に繋がるようです。

川上:辞退理由には、「一度は諦めたけど、やっぱり留学がしたい」というものもあります。コロナ禍に学生時代を過ごした方の中に特に多い印象です。
実は、当社は内定を保持したままで入社時期を選ぶことができるんです。数年間留学をして、帰国後に入社するということもできます。大学院への進学など理由は問いません。辞退の理由によっては、いくらでも解決策が見つかるので、コミュニケーションを重ねて、気軽に相談してもらえる信頼関係を築きたいと思っています。
「自由度高すぎ」な選考を
実現したシステム

・「学生ファースト」な反面、採用担当者の工数が膨大になりそうです。
川上:正直それはありますね(笑)。この自由な選考状況を管理するのは大変です。実際に運用を開始した当初は、管理システムとの不具合が出てとても苦労しました。2019年に新たに導入した『採用管理システムsonar ATS』に随分助けられています。

『sonar ATS』はカスタマイズ幅が大きく、また操作も簡単なので、自由度が高すぎる当社の選考をカバーしてくれました。
一例でいうと、当社では通年採用を実施しており、前年に不合格だった方が翌年再チャレンジしてくれることもあるんです。以前の管理システムでは、学年ごとに管理情報が分かれていたため、2度めの選考というフラグが立てられませんでした。これでは、当社の理想とする、個々に寄り添った採用が難しくなってしまうんです。「就活維新」は、『sonar ATS』がなければ実現できなかったと感じるくらい、なくてはならない存在です。
久保:複雑なカスタマイズができるのに、操作が簡単なことにも驚きました。マニュアルを読み込まなくても直感的に操作できます。
選考フローでは、現場の部署から70名ほど面接官として協力してもらうのですが、『sonar ATS』の操作について問い合わせを受けたことはありません。採用チームにとって大きな負担軽減になっています。
学生へのリマインドの自動送信機能もとても便利です。今の学生は忙しいので、複雑な選考フローに対してのリマインドは欠かせません。こちらが個別にケアしなくても、自動化できるのは非常に助かります。
もしも全ての管理業務を人力で行っていたらと考えると、人ひとり分くらいの業務が『sonar ATS』で削減できている印象です。

・YouTubeやTik TokなどSNSを採用活動に積極的に活用しているのも印象的です。ただ、目標設定が難しいチャネルでもありますね。
川上:当社の場合、新卒はグループ一括で採用していますが、事業やグループ会社は多岐に渡っており、業務をイメージしにくいと思います。理解促進のためにも、多様な発信チャネルを活用しています。SNSを能動的に見て応募してくださる学生は、当社の求めている積極性や柔軟性の高い方が多く、マッチ度が高い傾向があるんです。今後も伸ばしていきたいと思っています。
久保:ただおっしゃるとおりで、運用当初は、SNSの目標や効果測定に悩みました。以前は「いいね数」や「フォロワー数」をKPIにしていたのですが、成果が見えづらいと感じていました。

川上:これも『sonar ATS』の導入により、各SNSごとの応募への流入数が可視化できたことで解消されました。あくまで目的は採用です。目先のバズやリアクションに惑わされずに、応募に繋がったかを測り、喜び合えるようになりました。
もちろんSNSだけでなく、採用媒体や説明会での流入数もわかるので、データベースとしてとても役に立っています。選考中の学生のステータスや、昨年と比較した進捗状況がひと目でわかるため、自由度の高い選考フローを組んでも、業務量の心構えができます。
社風あってこそ生まれた
遊び心のある選考

・選考フローに加え、ネーミングセンスも光ります。どのように生み出しているのでしょうか?
久保:学生のみなさんにワクワクしながら参加して欲しくて、「Finalコール」「トライアウトリベンジ」など、インパクトのある呼称をチームのみんなで考えました。どんなに選考内容が面白くても、名前が硬いと伝わらないですからね。
川上:遊び心のある選考が実現するのは、人事担当役員が先導していることもありますが、社歴や役職に関係なく意見を尊重しあえる社風があってこそだなと感じています。
新しい施策を打ち出すときは、トップダウンではなくチームみんなでアイデアを出し合い、そして全員で作り上げるんです。学生の感覚と近い若手社員の意見を、役員が積極的に聞くシーンも日常的で、年次に関係なく意見が飛び交っています。
・採用を時代にあわせて常にアップデートしているんですね。今後目指す採用のあり方について教えてください。
川上:就活の形は毎年変化しており、最近では、採用媒体離れや、学生一人あたりの応募社数の減少が顕著です。ピンポイントに狙いを定める学生が増えていますね。そのため、知ってもらうための情報発信と、いかに相互理解を深められるかがカギになります。限られた期間の中で、今以上に学生と向き合いたいと思います。

そして、当社の選考を受けてくれた方にとって、少しでも得るものがあるような採用活動をしていきたいですね。最終的に他の道を選んだとしても、私たちのフィードバックが就職活動や今後の社会人生活の糧になればと思っています。私たちの部署名が“就活応援課”なのもそのためなんです。
たくさんの工夫をしましたが、今の選考フローが完成形だとは思っていません。今後も良いツールや手法があれば積極的に取り入れたいし、さらなるアップデートを目指します。立ち止まらないことが、私たちのポリシーである「学生ファースト」に繋がっていくと信じています。
(取材・編集:井澤 梓/撮影:岡村憲朋)