新型コロナウイルス感染症の拡大などにより、多くの労働者が自らの働き方を見直している今、企業も働き方改革に目を向ける必要があります。
そこで今回は、働き方改革の概要や必要性についてご紹介します。あわせて、働き方改革に伴う11の法改正をわかりやすく解説しているので、ぜひご覧ください。
働き方改革とは、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、労働者自身が「選択」できるようにするための改革のことです。企業規模や社員数を問わず、すべての企業に必要な改革であり、目的を正しく理解して取り組めば、労働環境を改善できたり労務問題を解決できたりする場合があります。
参照:働き方改革のポイントをチェック!|厚生労働省
働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~|厚生労働省
働き方改革が必要な理由には、日本が抱える2つの課題が関係しています。
ひとつは、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少です。生産年齢人口の数は1995年をピークに減少しており、2020年にはピーク時(8,726万人)から約1,300万人も減少し7,406万人となりました。そして、2065年にはピーク時の約半数となる4,529万人まで減少すると予測されています。
生産年齢人口の減少を引き止めるには、生産年齢に当てはまる人のほか、当てはまらない人も含め、働く意欲のある人を「労働力」として増やす必要があります。また、業務を効率化するなどして、少数でも成果を出せるような体制作りを行うことも欠かせません。そのため、労働環境を見直す取り組みとして働き方改革の必要性が高まっているのです。
このほか、働く方々のニーズの多様化も、働き方改革が必要な理由として挙げられます。
共働き世帯や単身世帯が増えたことで、昨今、育児・介護と仕事を両立できる働き方が求められています。このニーズに対応するには、フレックスタイム制を導入するなどして、労働環境を調整しなければなりません。そのため、働き方改革が必要だと考えられているのです。
参照:日本の将来推計人口 平成29年推計|国立社会保障・人口問題研究所
人口減少と少子高齢化|内閣府
では、働き方改革によって具体的にどのような法改正が行われたのでしょうか。以下で、11の法改正についてわかりやすく解説します。
参照:働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~|厚生労働省
働き方改革以前は、法律上、時間外労働の上限はありませんでした。しかし、働き方改革によって法律で時間外労働の上限が定められ、これを超える残業はできなくなりました。
具体的には、時間外労働の上限が「原則として月45時間・年360時間」と定められ、臨時的で特別な事情がなければ、労働者をこの時間を超えてまで働かせることはできません。
ただし、時間外労働の上限規制はすべての事業・業務に適用されるわけではありません。中には、適用を猶予または除外される事業・業務もあるので、あらかじめ確認するようにしましょう。
勤務間インターバル制度とは、1日の勤務終了後から翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間を確保する仕組みのことです。働き方改革によってこの仕組みが企業の努力義務となったため、労働者は十分な生活時間や睡眠時間を確保しやすくなります。
働き方改革以前は、労働者が自ら申し出なければ年次有給休暇を取得することはできませんでした。しかし、働き方改革によって、法定の年次有給休暇付与日数が10日以上のすべての労働者に対し、企業は毎年5日、年次有給休暇を確実に取得させなければならなくなりました。
なお、その方法は「労働者自らの請求」「計画年休」「使用者による時季指定」のいずれかです。
働き方改革以前は、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が大企業は「50%」、中小企業は「25%」でした。しかし、働き方改革によって大企業・中小企業ともに「50%」となります。
働き方改革以前は、労働時間の客観的な把握を通達で規定していました。ただし、その範囲はすべての労働者ではなく、裁量労働制の適用者と管理監督者に関してはこの通達の対象外でした。
しかし、働き方改革によって、健康管理の観点から裁量労働制の適用者や管理監督者も含め、すべての労働者の労働時間を客観的に把握するよう義務付けられました。
働き方改革によって、労働時間の清算期間が1か月から3か月に延びました。これにより、たとえば6〜8月の3か月間で労働時間を調整することができ、仮に子育て中の労働者が8月の労働時間を短くすれば、夏休み中の子どもと過ごす時間を確保しやすくなります。
高度プロフェッショナル制度とは、一定の条件を満たす場合のみ、労働基準法で定められた労働時間・休憩・休日および深夜の割増賃金に関する規定に縛られない、自由な働き方を認める制度のこと。職務の範囲が明確で、対象業務に常態として従事しており、さらには年収が少なくとも1,075万円以上の労働者が対象です。
働き方改革により、産業医・産業保健機能の強化が企業に求められます。具体的には、産業医の活動環境の整備や、労働者に対する健康相談の体制整備などを行う必要があります。
たとえば、産業医の活動環境の整備に関しては、企業から産業医への情報提供を充実・強化すること、そして産業医の活動と衛生委員会との関係を強化することが定められました。
同一企業にて、正社員と非正規社員とで基本給や賞与などに不合理な待遇差を設けることが禁止になりました。具体的には、「均衡待遇規定」「均等待遇規定」の2つを守る必要があります。
均衡待遇規定 | 不合理な待遇差の禁止。「職務内容」「職務内容・配置の変更の範囲」「その他の事情」の違いに応じた範囲内で待遇を決定する必要がある。 |
均等待遇規定 | 差別的取扱いの禁止。「職務内容」「職務内容・配置の変更の範囲」が同じ場合、待遇について同じ取扱いをする必要がある。 |
非正規社員は、正社員との待遇の違いやその理由について、企業に説明を求めることができます。企業は、非正規社員から説明を求められた場合、その内容や理由を共有しなければなりません。
なお、改正前と改正後の変化については以下のとおりです。
(※「改正前→改正後」を指しており、○は説明義務の規定あり、×は説明義務の規定なし)
内容・理由 | パート | 有期 | 派遣 |
雇用管理上の措置の内容(雇入れ時) | ○ → ○ | × → ○ | ○ → ○ |
待遇決定に際しての考慮事項 (求めがあった場合) | ○ → ○ | × → ○ | ○ → ○ |
待遇差の内容・理由 (求めがあった場合) | × → ○ | × → ○ | × → ○ |
不利益取扱いの禁止 | × → ○ | × → ○ | × → ○ |
行政による助言・指導を整備すると同時に、有期雇用労働者・派遣労働者について「行政による裁判外紛争解決手続の根拠規定」も整備する必要があります。後者の対象には「均衡待遇」「待遇差の内容・理由に関する説明」も含まれます。
なお、改正前と改正後の変化については以下のとおりです。
(※「改正前→改正後」を指しており、○は規定あり、△は部分的に規定あり(均衡待遇は対象外)、×は規定なし)
内容 | パート | 有期 | 派遣 |
行政による助言・指導など | ○ → ○ | × → ○ | ○ → ○ |
裁判外紛争解決手続 | △ → ○ | × → ○ | × → ○ |
企業が働き方改革に取り組む場合の具体的な方法には、たとえば「ワークフローシステムの導入」と「テレワークの導入」があります。
ワークフローシステムとは、各種申請や稟議などの手続きを電子上で完結させるシステムのことです。申請書式の作成や承認方法の設定などを実現するシステムのことを指す場合もあります。
各種申請や稟議を紙で行う場合、時間や場所が制約され、多様な働き方が妨げられかねません。その点、ワークフローシステムを導入すれば時間や場所に縛られずに手続きを行えるようになるため、多様で柔軟な働き方を実現でき、結果として働き方改革の促進につながります。
テレワークとは、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用した柔軟な働き方のことです。具体的には、勤務先や自宅以外で業務に着手する「モバイル勤務」、家で仕事を行う「在宅勤務」などが挙げられます。
テレワークを導入すれば、たとえば育児・介護をしている労働者が在宅勤務できるようになります。家族のそばで仕事ができるため、何か起きたときもすぐに対応することが可能です。
このように多様で柔軟な働き方を実現できる点から、テレワークは働き方改革に取り組む上で有効な手段といえます。
働き方改革は、生産年齢人口の減少を引き止めるため、そして働く方々のニーズに対応するために欠かせない取り組みです。つまり、企業が新たな人材を確保し、さらなる進化を遂げる上で必須ということです。そのため、今回ご紹介した11の法改正を正しく理解した上で、ぜひ自社に合った方法で働き方改革に取り組んでみてください。
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