お役立ち記事

専門家コラム

人事評価制度のつくり方①人事評価制度をつくる目的を整理する【第1回 人事のプロに聞く】

    • 専門家コラム

新しく会社を立ち上げたとき、会社の改革を行うとき、さまざまな場面において人事評価制度を一からつくったり見直したりする必要があります。その際、どこから手を付けていいのかわからないという人事担当者も多いのではないでしょうか。そこで、今回は人事制度改革や人材育成の仕組みづくりのプロフェッショナルにインタビュー。HRM革新センターでセンター長を務め、チーフ・コンサルタントとしても活躍する株式会社日本能率協会コンサルティング・村上剛氏から、「そもそも人事評価制度とは何か?」といったイロハのイから、人事評価制度のつくり方について、2回にわたって教えていただきます。

 

見落とされがちな、人事評価制度の本来の機能

―人事評価制度とはどのようなものなのか、改めて教えてください。

JMACでは人事評価を「社員一人ひとりの成果向上と成長促進を図るために本人の実力を診断。処遇につなげるとともに、実力を発揮させるポイントを明確化すること」と定義しています。人事評価制度とは人事評価を組織の中で実現できるようにした制度です。人事評価というと、賞与や昇給、昇格といった処遇につなげるために行うイメージがあります。当然そういう一面はありますが、人事評価は健康診断と同様、定期的に本人の実力を診断し、育成課題を明確にするもの。そして、解決策を上司と部下がお互いにすり合わせて成長につなげることが一番の目的です。つまり、人事評価制度は社員を育成するためのマネジメント・ツールなのです。人事評価制度を機能から捉えると、以下の2つになります。

1.「育成機能」…社員の育成・指導ポイントの明確化
2.「査定機能」…処遇格差をつけるため、根拠の明確化

人事評価はどうしても、2の「査定機能」がフォーカスされがちであるため、人事評価の本来の目的である1の「育成機能」が重視されにくい傾向があります。しかし、「育成機能」が十分に機能すれば、本人の抱えている課題が見えるようになり、その解決方法を上司と部下で話し合っていくことができるでしょう。つまり、人事評価制度は、マネジメントに活かせるツールなのです。この点は、人事担当者が率先して社内に啓蒙していく必要があると思います。

―人事評価制度のトレンドや傾向について教えてください。  

日本における人事制度は、1973年のオイルショック以降、職能資格制度が主流になりました。最近の調査でも、国内企業の半数がその制度を採用していることがわかっています。職能資格制度について簡単に説明しましょう。この制度は、職務遂行能力の高さに応じて社員を序列化します。しかし、職務遂行能力の高低を評価することは難しく、それは経験年数に応じて上がっていくものと考えられていました。その結果、勤続年数や経験年数によって序列化され、職能資格制度は年功序列制度に近いものになってしまったのです。

職能資格制度における人事評価制度では、能力・成績・情意という要素を主に評価することが一般的です。ここでいう能力は、潜在能力と顕在能力の両方が包含されたものとして捉えられてきました。

バブル崩壊以降は、限られた賞与や昇給原資を組織への貢献度やパフォーマンスが高い社員に分配しようということで、成果を起点とした制度が導入されました。成果に重きを置いて評価する、いわゆる「成果主義制度」です。そして成果を測るツールとして、目標管理制度(MBO:Management By Objectives)も多くの企業で導入されるようになりました。これは、組織の目標と個人の目標を統合し、各個人が設定した目標に対する達成度合いを評価する制度です。能力については、保有する能力でなく、発揮された能力である顕在能力がフォーカスされ、「発揮能力」や「行動」、「コンピテンシー」という言葉も出てきました。 

最近では、ジョブ型人事制度という、職務(=ジョブ)をもとに等級を序列化する制度が注目されています。コロナ禍によってテレワークが普及し、上司が部下の仕事や行動を把握しづらくなったため、職務をしっかりと規定して部下の仕事を把握しようとする動きが活発化したことが影響していると考えられます。この他にも、上司と部下のコミュニケーションを深めることで最終的な評価を段階化(評語化)しない、いわゆる「ノーレイティング」という動きもありますが、これはまだ主流ではありません。

制度を“形骸化”させないために

―人事評価制度が、定着しないケースもあります。考えられる傾向や要因を教えてください。

先ほど、人事評価制度には「育成機能」と「査定機能」があると説明しましたが、定着しない企業は「査定機能」を重視しているケースであると考えられます。マネージャーにとって人事評価制度は部下を育成するためのマネジメント・ツールです。しかし、査定機能が重視されると、普段から評価項目を意識しないため、いざ評価する時になってから、「こういう評価項目もあったな」と思ってしまうような事態に陥るのです。そうなると人事評価が毎年やらなければならない“作業”となってしまい、部下の人数が増えれば、そのぶん“作業”の負担が増えることになります。そして、人事評価制度はどんどん形骸化してしまい、結局定着しなくなるのです。

繰り返しになりますが、人事評価制度の本来の目的は「育成機能」です。処遇に格差をつけるための根拠として評価結果を使うことはありますが、本来はマネジメントに活かすためのものです。「育成機能」を重視した人事評価制度を実施できていれば、上司も部下も日常会話の中で評価項目や評価基準(着眼点)が出てきて、指導や育成に役立てられます。

たとえば、行動評価項目の評価基準(着眼点)に「お客様の顕在的なニーズだけでなく、潜在的なニーズも明らかにする」とあったとします。もし、部下がお客様との商談で、お客様が話した内容にしか着目していなければ、顕在的なニーズにしか着目していないということになります。その時に、「お客様の発言の裏には、どんな背景があると思う?」というように、評価基準(着眼点)を活用して上司が部下に問いかければ、部下の指導・育成に役立てることができます。このように本来の人事評価制度は、日常業務から切り離されたものではなく、マネージャーにとってはマネジメント・ツールとして役立てられるものなのです。

―人事評価制度をつくる難しさは、どういったところにありますか。

一番難しいのは、評価項目を設定することです。人事評価制度は、部下への指導・育成のためのマネジメント・ツールなので、社員がどのような行動をとればいいのか、評価項目に表れないといけません。そして、社員に求められるその行動とは、各企業の経営戦略や事業戦略に紐付くものです。そのため、経営戦略や事業戦略から求められる人材像へとブレイクダウンし、その人材像へと成長するためには、どのような能力を発揮しなければならないのか、どのような行動をとることが求められるのかを考える必要があります。その過程を経て、落とし込まれたものが「評価項目」です。しかし、その過程を経ずに評価項目が設定されることが多いので、他社とあまり変わらない評価項目になってしまっているケースも見受けられます。各企業の経営戦略や事業戦略を起点に自社なりの評価項目を設定することが肝要です。

目指すべきは、被評価者の「納得性」

―人事評価制度は、なぜ必要なのか?つくる目的について改めて教えてください。

部下の育成・指導にあたり、共通の基軸をつくるためです。すべての上司が、求める人材像について共通認識を持っていれば、人事評価制度は不要です。しかし、上司のものの見方・考え方は人によって異なります。たとえば、ある上司は「5級ではこれくらいのことができるのは当たり前」と思っても、別の上司は「5級でこれができることは能力が高い」と思うこともあります。上司によって評価が異なると、部下が混乱してしまいます。このような事態を防ぐために、共通の基軸を設けることで公正な人事評価を行うことができるのです。

―人事評価制度が上手く機能しているかどうか、確認する方法はありますか。

納得性のある評価が行われているかどうかを検証するためのアンケートが有効です。「評価結果についての納得度」と「上司のフィードバックに対する納得度」は検証の必要性が考えられます。当然、部署によって納得度の傾向が異なるため、それぞれの部署の課題を明確にすることが重要です。

「評価結果についての納得度」に関して、業績と行動といった評価要素別の対応方法を考えてみます。

【業績評価 
ケース:「目標達成度」に対して納得度が低い。

仮に「目標達成度」が5段階評価だったとしたら、どのような結果であれば各段階の評価になるのかをはっきりさせる必要があります。目標の達成基準が曖昧だと、評価が曖昧になり納得性は得られません。 定量的な達成基準の場合は、売上や受注件数などの共通の指標で尺度基準を設定すること、定性的な達成基準の場合は、達成状態を具体的に表現することが望ましいでしょう。  

【行動評価】
ケース:「積極性」「協調性」など、態度・行動についての評価項目に対して納得度が低い。  

行動評価は主観的な評価に陥りやすいので、特に客観的な行動事実をもとに評価することが大切です。たとえば、上司と部下がずっと同じ部署の場合、それまでの関係性からお互いのことを知っているという認識になり、評価が主観的になりやすくなります。イメージでなく、対象期間の複数の行動事実を基に評価する必要があります。 

また、アンケートだけでなく、被評価者に対しては納得度がなぜ低いのか、その理由をヒアリングすることも有効です。アンケートはとっておしまいではなく、アンケートで抽出した課題を、改善へと生かさなければ意味がありません。いつまでに、誰が主体となって解決へと導いていくのかを明らかにし、納得性向上へのアクションにつなげて欲しいと思います。

そのアクションとして、評価者が公正な評価ができるようにトレーニングすることは重要です。「上司のフィードバックに対する納得度」が低い場合は、フィードバックのロールプレイング演習などで実際のスキルを磨いていくと良いでしょう。指導や育成につなげるための評価・フィードバックをするには、どのような働きかけが有効なのか、という視点を養うことが大切です。

コンセンサス形成や体制づくりなどの事前準備も必要

―人事評価制度をつくる前に、押さえておきたいポイントを教えてください。

まずは、人事評価の目的が「育成」のためであると明示し、社内に周知徹底することです。社員が「人事評価は、査定のためだけのもの」と認識していると、制度はうまく機能していきません。次に、自社が求める人材像を設定しましょう。これが、社員を育成する際の道しるべになります。最後に、求める人材像に必要な要素を、項目として展開することも忘れてはいけません。これが具体的な評価項目となります。

このほか、人事評価結果への対価を得られる仕組みを整えることも大切です。いくら評価が高かくとも、給与や賞与などの処遇との関連性が薄いと納得感は得られません。処遇への反映について納得性が低いままでは社員のモチベーションは下がり、離職にもつながりかねません。そのため、評価の処遇への反映ルールは人事評価制度の中でしっかりと取り組むべき項目と言えます。

また、せっかく人事評価制度を構築してもしっかりと運用できなければ意味がありません。人事評価制度を運用していくための取り組みも重要になってきます。先ほど触れた評価者への継続的なトレーニングや制度の改善に向けた定期的なアンケート調査も求められるでしょう。

人事評価制度を査定だけの目的で活用してはいけません。あくまでも、社員を「育成」し、社内の人的リソースを「拡大」するものを主眼として活用してほしいと思います。

後編:人事評価制度のつくり方② 人事評価制度の種類と選び方【第2回 人事のプロに聞く】

また、Thinkings株式会社では採用業務を大幅に効率化する「採用管理システムsonar ATS」を提供しています。「事務作業に追われ、候補者と向き合う時間がない...」とお困りの方は、ぜひ一度資料をご覧ください。

▼導入企業様からはこんなお声をいただいています▼
「採用担当の残業時間が前年より83%減少した」
「まるで採用担当がもう1人増えたみたい」
「最終面接への移行率が60%→90%に増加した」
⇒採用管理システムsonar ATSの資料はこちらから

SHARE
この記事の著者
村上 剛
村上 剛

株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)
ラーニングコンサルティング事業ユニット ユニット長
HRM革新センター センター長
チーフ・コンサルタント

大手事業会社で、人事・総務・経理、経営企画・管理、法人営業、業務改善コンサルタントなど、さまざまなキャリアを積む。2006年にJMAC入社後は、人事制度改革・人材育成の仕組みづくりなどを専門に手掛ける。近年は、ビジネスに貢献するHR、ダイバーシティ推進、働き方改革などを通じ、企業の経営や事業への貢献を目指している。2016年、財団法人全日本能率連盟 第57回論文発表大会 経済産業大臣賞受賞(「経営・事業戦略を実現する人材」を増やす人材資産マネジメント」~資産発想アプローチによる実践的人材開発手法~)。

sonar ATSをさらに詳しく知りたい方

導入にあたって気になるポイントを解説します