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もはや採用の必須フロー!「オヤカク」のすすめと実践メソッド【採用賢者に聞く 第35回】

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保護者の反対による内定辞退、クレームに発展する事案を予防するために、「オヤカク」に力を入れている企業が増えています。なぜ今、「オヤカク」が注目されているのか、その背景や具体的な対応などについて、株式会社人材研究所の代表・曽和利光氏に伺います。

実は、曽和氏は約30年前のリクルート時代に、すでに「オヤカク」に取り組んでいたとのこと。その経験をもとにした実践的なノウハウを、初公開していただきました。

保護者の意向は、今や無視できない時代

「オヤカク」とはどのようなものを指すのでしょうか?概要を教えてください。

「オヤカク」とは、狭義的には子どもの内定について、保護者(親)の意向を確認することです。もし、保護者が反対している場合は、内定辞退のリスクが高くなるため、対策を立てなくてはなりません。そのため、広義的には「親の決裁を確定させること」までを「オヤカク」と呼ぶ場合もあります。

近年、「オヤカク」がクローズアップされている背景を、どのようにお考えですか?

2021年1月、株式会社マイナビが、保護者1000名を対象に『就職に対する保護者の意識調査』を実施しています。大学4年/大学院2年で今年就職活動を終えた、もしくは現在活動中の子どもを持つ保護者が対象です。調査によると、保護者が子どもの就職先に望むことは「経営が安定していること」が51.5%と大半を占め、入社希望業界は「官公庁・公社・団体」が最多となっています。また、学生自身も「安定志向」が高まっている傾向にあります。

(出典:『就職活動に対する保護者の意識調査(2022年1月実施)』

同じく株式会社マイナビの発表した『マイナビ2023年卒大学生意識調査』によると、「企業選びのポイント」については、「安定している会社」が、ここ20年間右肩上がりです。対照的に長く1位の座を守っていた「自分のやりたい仕事(職種)ができる企業」は減少傾向にあり、2020年以降は「安定している会社」に逆転されています。

(出典:『マイナビ2023年卒大学生意識調査』)

安定志向が顕著になっている背景は、学生の保護者が、就職関連でひどい目にあってきた世代のためと考えられます。就職活動中はいわゆる就職氷河期であり、2008年のリーマンショックでは早期リストラ対象になったのもこの世代です。“平成の失われた30年”とはよく言ったものですが、就職関連の苦労を保護者も、その姿を間近で見ていた学生も、ひしひしと感じていたのではないでしょうか。それが、安定志向につながっていると思われます。

また、少子化によって、一人っ子が増えていることも原因だと思います。老後のことを考えると、何人か兄弟や姉妹がいる場合は、誰かが地元に残ってくれればよいとなりますが、一人っ子の場合はその子しかいません。保護者が、子どもに地元での就職を期待するのも無理はないでしょう。

このほか、直近の災害などによる社会不安も大きく影を落としています。学生たちもリアルタイムで、2011年の東日本大震災、2018年の西日本豪雨、2019年の関東一円を襲った台風15号、そして2020年のコロナ禍などを経験しています。社会不安が起こると、就職活動も保守化する、それは私が30年間就職市場を見てきて、変わらず繰り返されている現象ですね。

このような中、「オヤカク」はどのぐらいの企業が実施しているのでしょうか?

先述した『就職に対する保護者の意識調査』によると、保護者の約49.9%が内定確認の連絡があった、つまり「オヤカク」を経験したと回答しています。

そもそも新卒採用は、学生の背後で意思決定に大きな影響を与えている人にも気を配る必要があります。それは、恋人や就活仲間、先輩、友人、先生などさまざまです。なかでも今は、保護者からの影響が大きい傾向にあるので、今後の採用活動において「オヤカク」はマストと捉えるべきでしょう。

(出典:『就職活動に対する保護者の意識調査(2022年1月実施)』)

「オヤカク」は、すべての企業で実施したほうがよい、ということでしょうか?

保護者の世代に人気な認知度の高い企業は、逆に保護者が勧めてくれるので「オヤカク」は必要ないかもしれません。ただ、残念ながら認知度の低い、メガベンチャー、新しい勢力の企業は「オヤカク」に取り組む方がよいと思います。外資系企業も、案外知らない保護者が多いので、実施することをおすすめします。

保護者は、学生より社会人経験が豊富で、世の中の知見もたくさんあります。ただ、自分の関わる業界に詳しくても、そこから外れるとわからないケースはよくあることです。何か手を打たなければ、せっかくつなぎとめた学生を、内定承諾直前に取り逃がしてしまうかもしれません。ぜひ「オヤカク」の実施を検討しててほしいですね。

保護者の反対は、予兆もなくやってくる

「オヤカク」を実施しないと、どのような事態が起こると考えられますか?

典型的な例としては、内定を出した後の大どんでん返しです。「秒読みだったのに…」と驚く採用担当者も少なくありません。私の経験上、本人が迷っている場合には予兆があるので、びっくりするような内定辞退はほとんどありません。

しかし、保護者の反対は、論理ではないので大どんでん返しになりがちなのです。たとえ学生が、めちゃくちゃチャレンジングで、自立した完璧な人物だったとしても、私たち面接官と築いた関係性は、せいぜい1年弱。保護者との関係性のほうが遥かに濃く、それを無視できる学生はほとんどいないでしょう。学生の固い意志は、残念ながら当てにできないのです。

ちなみに、保護者との関わりで、印象的なエピソードはありますか?

 

リクルート時代の話ですが、保護者から「面接で不合格にしてほしい」と依頼されたことがあります。「子どもは、あなたたちのインプットで洗脳されているから、私たちの言うことを利かない。だから、そちらで落としてほしい」というもの。「ここまでするのか」と驚きました。結局、個人情報のため公開できない旨を丁寧にご説明し、諦めていただきました。

このほか、保護者から「一度会社を見たい」と連絡を受けたこともありました。子どもの勤める会社をよく知りたい、採用担当者と一度話したいというご要望だったので、好意的なケースでしたが、緊張しましたね。

「オヤカク」は、学生にどう動いてもらうかが鍵

具体的に、「オヤカク」とはどのようなことを行えばよいのでしょうか?

一番シンプルなのは、学生に直接ヒアリングする方法です。セオリーとしては、次のようなステップになります。

(1)影響を与えている人を探る

就職活動の上で、相談に乗ってもらっている人、アドバイスしてくれる人について聞くことです。もし、ここで保護者の方が挙がらなければ、「親御さんはどうですか?」と、単刀直入に問いかけてみましょう。

(2)保護者と話している内容を探る

保護者が相談相手という場合は、どのようなことを話しているのか、内容をヒアリングしましょう。最初は一般論の話から始めると、学生も変に警戒しないと思います。基本は会社選びの軸について、保護者の方がどのように考えているのかを聞いてみることです。大手志向、地元志向、穏やかな社風など、だいたいこのような軸が挙がってくると思います。

(3)保護者が自社をどう思っているのか探る

これは、「オヤカク」で絶対に抑えたいポイントです。保護者の自社に対する印象や感想を、しっかり学生から聞き出してください。(1)~(2)まで取り組んでいる企業は多いのですが、この(3)まで踏み込んでいないケースが多いようです。もし、学生が、保護者から自社の印象を聞いたことがない場合は、次の面談までの“宿題”として、ヒアリングしてきてもらいましょう。ここで得た情報が、対策を立てるために重要になります。

もし、頼んだのに学生が聞いてくれない場合、保護者との関係が複雑な場合もありますが、往々にして志望度が低い可能性が高いです。志望度が低ければ、家族とわざわざ話すこともありません。「オヤカク」は、学生が自社をどのぐらい重視しているのかを知る目安にもなるでしょう。

(4)“武器”を、学生にインプットする

保護者が感じている不安や誤解を把握したら、それらを解消できる情報を“武器”として学生にインプットしましょう。それをもとに、学生に保護者を論破してもらうことになります。直接、採用担当者が保護者とコミュニケーションを取るのは、圧迫感があって印象が悪くなる恐れがあります。

そのため、ここは学生に頑張ってもらうのが得策だと考えます。このとき、提供する情報は「第三者による社会的な証明のある事実」が望ましいでしょう。具体的には本やニュース、ランキングなどが挙げられます。

(番外編)飛び道具を使う

予防線を張るために、保護者に会社案内のパンフレットを送るという手もあります。「ご子息がご入社する当社を知っていただきたくて」という理由で問題ないでしょう。

「オヤカク」で、大切したい心構え・時期・準備

オヤカクを実施する際、気をつける点も教えてください。

心構え、時期、準備の観点で、次のことが大切だと思います。

■心構え:常にマイナスからのスタート

保護者は疑ってかかっているという前提を忘れないことです。マイナスイメージからスタートしているので、きらびやかな情報ばかりだと胡散臭く思われてしまうでしょう。学生相手の場合は、将来の自分と未来の会社をマッチングするものなので、夢があってもいいと思います。

ただ、保護者は今の現実をシビアに見つめる社会人です。今のリアルな情報をもとにした、地に足のついた説明のほうが心に届くと考えます。

■時期:ベストなのは、口説き始めるタイミング

「オヤカク」は早いに越したことはありませんが、あまり早いのも考えものです。学生の第一志望が固まっていないでしょうし、採用担当者も採用する可能性の低い学生に「オヤカク」することになるので負担が大きくなります。かといって、遅すぎると保護者の説得が間に合わない場合もあります。

それらを加味すると、実施の時期は内定を出すと決めた段階がベストです。具体的には、最終面接の手前ぐらいでしょうか。口説き始めるタイミングになったら、「オヤカク」を組み込んでおくべきでしょう。

■準備:「オヤカク」で使える情報の収集・分類

「オヤカク」で判明した不安や疑問に対して、その解消に使える情報を、日頃からストックしておくことをおすすめします。「オヤカク」を続けると、不安や誤解はだいたい類型化できるので、それに合わせて情報をボックスなどに分類しておくと、なお効率的です。

私もリクルート時代、オヤカクで挙がってきた問題に、薬を処方するように情報を取り出していました。今はネットでもすぐに調べられますが、ストックしておいたほうが便利だと思います。

情けなくも、避けて通れないのが「オヤカク」

最後に、「オヤカク」に関心のある採用担当者に、メッセージをお願いします。

就職活動を本質的に考えれば、就職は個人の意志が尊重されるものです。採用に関してポリシーをもって臨んでいる人ほど、保護者の話をあえて取り上げる必要はなく、むしろすべきではないという思いがあるでしょう。実は、私の本音も、保護者に取り入るような「オヤカク」を情けなく思っています。

しかし今の時代、彼らの置かれている状況を考えると、家族の影響を受けるのは致し方ないことです。採用担当者の熱い気持ちはわかりますが、現実問題として「オヤカク」は重要なことです。採用フローの一環として、検討してみてください。

 

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この記事の著者
曽和 利光
曽和 利光

株式会社人材研究所
代表取締役
https://jinzai-kenkyusho.co.jp/

リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験、また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や情報経営イノベーション専門職大学客員教授も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。

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