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人事評価制度の作り方④作成した評価制度が機能しない【第4回 人事のプロに聞く】

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設定した評価項目・評価基準をもとに、人事評価制度を運用する際に、想定通りに進まないことがあります。現場からはもちろんのこと、経営者からも不満の声が出ることも…。いったい、その原因はどこにあり、どう解決していけばよいのでしょうか。この問題について、前回に引き続き人事部長経験や人事コンサルタントとしての豊富な知見を持つフォー・ノーツ株式会社代表取締役社長 西尾太氏にアドバイスをいただきました。「評価」本来の目的は「育成」ですが、そもそも企業が、「育成」に力を入れなくてはならない真意とは?示唆に富む見解をお聞きすることができました。

前編:人事評価制度の作り方③評価項目・評価基準はどう決める?【第3回 人事のプロに聞く】

運用時のよくある悩みを解消する「ケース・スタディ」

――設計した人事評価制度が、うまく機能しないことがあります。これらのケースについて原因と解決策を教えてください。

1.評価者による甘辛が出ているケース

評価者に、「自分は育成責任者である」という自覚がないことが原因だと考えられます。これは実際にあった話ですが、ある社員に対して、チームとして目標を達成していないのにも関わらず、評価項目のほとんどに「A」をつけたマネージャーがいました。その理由を問うと、「頑張っているから、よい評価を与えたいという親心」という回答が。私はすぐさま、「そんな評価の仕方をしてはダメです」と指摘をしました。評価者は、被評価者に対して「できていないこと」をしっかり伝えて、育てるのが役割です。「できていないこと」を伝えないというのは、育成を放棄したのとなんら変わりません。それはつまり、「評価に甘辛が出る=評価者が自分の職務を全うしていない」と露呈しているようなものなのです。

こういった意味を含めても、上司はもちろん、部下や同僚など、さまざまな立場の人が評価する「360度評価」は気づきを与える教育目的のみであれば良いのですが、「被評価者の処遇を決める人事評価」にはおすすめできません。これは、単なる人気投票になりがちですし、何より、育てる責任のない評価者が評価したところで、誰が被評価者の成長を願い、フォローするというのでしょう?それでは「育成」が本来の目的である評価制度の意味がありません。

解決策:評価会議で、評価の妥当性と育成方針を検証
対象となる社員になぜこの評価をつけたのか、評価者同士で真剣に語り合い、今後どのように育てていけばよいかを全員で考える場を設けましょう。その際に、評価者それぞれの評価を一覧で比較します。すると、いい加減な評価をつけているかどうかが一目瞭然でわかるんです。そうすることで評価者に気づきを与え、「育成責任を持たなければならない」と自覚を促すことができます。それでもきちんと評価できない場合は、評価者のポジションから外すことも検討しなくてはなりません。

2.評価と報酬の関連性が薄いケース

「売上にこれだけ貢献したのに、報酬に反映されないのはなぜか」「同じ働きをしたのに、どうして別の社員のほうが昇給しているのか」など、評価と報酬のバランスが取れておらず、社員のモチベーションの低下や離職を引き起こすケースがあります。このように評価と給与テーブルがきちんと結びついていないなら、間違いなく制度の問題なので見直すしかありません。しかしなかには、制度がしっかりしていても、「報酬は自分が決めたい」というトップやオーナーもいます。これによって、人事評価の仕組みが形骸化してしまう可能性も出てきます。

・解決策1:「成果」と「行動」の評価を分ける
評価に応じた給与テーブルを作成するとき、「成果」と「行動」に対する評価をそれぞれ混ぜないようにすることがポイントです。突発的に増減する成果の評価は「ボーナス」に、日々の積み重ねが表れる行動の評価は「基本給」に、と分けておくのがよいでしょう。

・解決策2:制度で決めた昇降給・賞与支給額を厳守する
「報酬は自分が決めたい」というトップやオーナーに対しては、制度が優先であることをきちんと理解してもらう必要があります。しかし、簡単なことではありません。事実、私がコンサルティングした企業のなかにも、「どうしても自分で報酬を決めたい」という社長がいました。そのときは苦肉の策として、制度で決まった報酬とは別枠で、社長が自由に配分できる報酬を設けるという形で納得していただきました。いずれにしても、制度で決まった報酬をしっかり付与することが社員からの信頼につながる、ということを忘れないでください。

・解決策3:評価に関連する各制度を整備する
報酬は、給与や賞与に限りません。責任あるポジションに昇進する、挑戦したい仕事に取り組めるなどの「キャリアにつながるもの」や、業績を上げた部署に社員旅行をプレゼントするなど、「福利厚生に反映するもの」もあります。その場合は、評価と各制度との関連性も整理した上で、評価に応じた報酬を与えるようにしましょう。

3.面談やフィードバックが十分でないケース

「なぜ、この評価になったのか理解できない」「どう改善すれば、評価が上がるのかわからない」など、被評価者が不満を募らせるケースがあります。この中には、評価者と経営側の双方で問題を抱えているケースもありますが、多くの場合は、「評価者は育成責任者である」という認識が薄いことに原因があると考えます。

・解決策1:強いメッセージで、評価者の自覚を促す
面談やフィードバックが不十分になる理由は、評価者が評価する業務のプライオリティを下げているからです。人事部から、評価者に向けて、「正しく評価をしていない管理職は、管理職を辞めてください」というくらい強いメッセージを発信し、意識そのものを変えてもらう必要があります。私の知る限り、成長している企業は、評価することを最優先し、長い時間をかけて評価会議を実施しています。実際、ある企業の会議にコンサルタントとして参加したときは、店長、エリア長を交えた大激論大会が行われていました。他の企業も、あのくらい評価者が社員一人ひとりに対して、どう育てていこうかと真剣に話し合う場を持ってほしいと思っています。

・解決策2:1on1での評価と、それを支える体制づくり
評価をきちんとフィードバックするには、1on1の面談を定期的に実施するのが基本です。被評価者の普段の様子を見る機会がなければ、到底評価できませんし、そもそも評価を日頃の育成や指導につなげなくては意味がありません。ただ、1on1で対応できる部下の数は8名が限度だと言われています。たしかにそれ以上になると、一人の評価者では面倒を見切れないというのが、私の実感値です。その場合は、新たに管理職のポジションを増やすなど、組織の体制を見直す必要が出てくるはずです。また、評価者に対するフォロー体制も忘れてはいけません。もし、一人の評価者だけでは見切れない、もしくは評価者の評価のスキルが不足しているという場合は、その上長が一緒になって評価の業務に当たるということも考えたほうがよいでしょう。

入念な認識のすり合わせと長期的スパン

――評価制度を作成し、運用する前に意識しておきたいことはありますか。

評価者研修で、自分の評価の“癖”を知る

新しい人事評価制度を作成したら、実際、評価を実施する前に評価者研修で一人の被評価者を評価してみるシミュレーションを実施しましょう。それを各評価者が比較検討する機会を設けることをおすすめします。これによって、評価者が自分自身の評価の“癖”を是正し、公正な評価をつけることやどう育成に生かすべきかという観点を得られるようになります。

経営層に、管理職は評価業務が最優先と理解を求める

役員会議などで、指摘されがちなのが「管理職が、評価会議や評価に労力をかけすぎている」ということ。評価者である当の管理職も、そう感じていることが往々にしてあります。実際、評価会議は非常に時間がかかるものです。1on1の面談も一人1時間はかかるでしょう。管理職が評価にかける時間は想像以上に膨大なのです。しかし管理職にとって、“評価によって人を育てること”より重要な仕事があるのでしょうか。重ねて言いますが、業績の良い企業、人が成長している企業は、評価に惜しげもなく労力と時間をかけています。人事担当者は、経営者や被評価者に対して、評価業務への認識のギャップを辛抱強く埋めていくしかありません。

――人事評価制度が機能しているかどうかは、どの程度の運用段階で判断すべきでしょうか。

新しい人事評価制度を導入した場合は、経験則ですが、3期ぐらいPDCAを回す必要があると思います。評価項目や評価基準について、事前に評価者研修を実施したとしても、実際に導入して実施してみないとわからないことが意外とあるのです。

・1回目で、手順がわかるようになる
・2回目で、評価しきれていなかった課題が見えてくる
・3回目で、ようやく是正できるようになる

というイメージです。もし、評価を半期ごとに実施するならば、定着まで1年半はかかるでしょう。その上で、うまく機能しているか判断してください。

労力をかけてでも、人材を育成する真意とは

――膨大な時間や労力がかかる評価制度。経営層や評価者のなかには、「評価は、効率的に査定に使えればいい」という考えも根強いかと思います。どのように「育成」について理解を求めれば良いでしょうか?

そういった経営層や評価者の方は、「日頃の指導や研修で育成できる」という考えかもしれませんが、正当な評価なくして育成はありえません。評価に力を入れないのは、育成を軽視しているのと同義です。どれほど手間がかかっても、評価制度を整え、企業は人を育てなくてはなりません。それは、短期的に見れば事業の維持や成長のためですが、長期的に見れば企業の人材リスクを低減するためでもあります。

ある人材会社をコンサルティングしたときに、人事ポリシーについて次のようにアドバイスしたことがあります。「人材会社でオペレーションを経験した20代は、市場価値がある。しかし、そこで20年間オペレーションしか経験しなかった40代は、社会では通用しないかもしれない。その人材が30歳を超えたとき、選択肢を持てるように、それまでに成長できるステップを設計しましょう」と。

昨今、「黒字リストラ」として中高年の希望退職を行う企業が増えています。このような事態になったとしても、世の中に通用する人材を育てておければ、早期退職をした社員が路頭に迷うことはありませんし、人材はスムーズに流動するでしょう。しかし、人材が成長していない場合はどうでしょうか。どうしたって、今の環境からなかなか離れることができないはずです。そして、そのような人材を抱え続けることは、企業にとっても好ましい状況とは言えません。人材を育てられないまま抱え続けることは、企業にとってリスクでもあるのです。

一方、社員としても会社に縛られることなく、いつでも違うステージにチャレンジできるのは幸せなことです。また、逆説的ではありますが、成長できる環境があれば、優秀な社員ほどそこにメリットを感じ、会社に残ろうとしてくれます。育成に力を入れることは、企業にこういった好循環をもたらすこともあるのです。
だからこそ、このような大局的なイメージを人事部の人には持っていただき、経営層や評価者への理解を求めてほしいと思います。

後編:人事評価制度の作り方④作成した評価制度が機能しない【第4回 人事のプロに聞く】

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この記事の著者
西尾 太
西尾 太

フォー・ノーツ株式会社 代表取締役社長
「人事の学校」主宰
人事コンサルタント
https://www.fournotes.co.jp/

1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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